無茶振りと無駄遣い
「私を殺した犯人を見つけるのが、探偵の立川さんへの依頼です」
さて、空白の思考とでもいうべきか、ただただお嬢様の言葉が頭を駆け抜けたときに、人が理解するために必要な言葉や経験を総動員し、その場から抜け落ちてしまいそうな考えの欠片も、飛んでいきそうな間抜けな魂さえも脳内を駆け巡っても、やはり何を言っているのかすらつかめなかった。
私を殺した犯人といわれても、お嬢様は優雅に微笑んでいる姿をみるかぎり、死んでいるとは到底思えないし、まさか幽霊とでもいうのだろうか、幽霊だとしたら、生きている僕よりも高貴で、存在感というものが、ある事になる。
それはそれで情け無いが、足もあるようだから、幽霊ではないだろうとは思う、いや、足があっても欧米では幽霊だったような気がするし、やはりただの冗談だと思うし思いたい。
しかし冗談を言っているような雰囲気であったなら笑い飛ばせる、いやこの状況で冗談だとわかっても笑い飛ばせるような神経があれば、世の中を上手く渡っていたのかもしれない、まぁそれも諸々で駄目な気がしてくる所は笑えると思う。
結局何も考えずに引き受けたと同義のように、何もわからないまま、お嬢様の期待のこもった視線からいたたまれずに、逃げ込むように、笑えずに、曖昧ににフヒヒと笑いながらうなずいたのは、そんな期待の目からただただ、あわせないようにしただけだ。
ファーストフード、コンビニ弁当、カップ麺と不摂生のお手本のような、一人暮らしの男であれば当たり前のような、食事とはかけ離れているような、高級な料理も 逃げたという後味の悪さからか、料理の高級さかと雰囲気にのまれたせいか、全く味がしなかった。
そして今布団の中で、ゴロゴロと寝返りをうちながら考えてしまい、夜がすぎて、早朝になったときに調度眠気がやってきた、このまま泥のように眠ってしまいたいと考えたところまでは覚えている、そして目覚ましの携帯のアラームが聞こえていなかったのだろう、泥のように眠った代償は、起こしにきたメイドさんの冷たい視線と声、そして明らかに痛む、腹部のいたみや頭のいたみだった。
「まさか寝過ごすとは良い神経してますね、疑うレベルです、朝食の時間は伝えていたはずです」
「すいません」
「声をかけて、起こしてもおきないどころかあと5分というたわけた寝言をきかされるとは、不愉快です、思わず手がでても私に罪は無いでしょう」
そんな寝言をいった覚えが無い、まぁ寝言を覚えている人なんてそうそういないのだけど、それでも腹部や頭に痛みを感じるほどに、殴ってくるとは思わなかったが、寝過ごした自分が悪いといわれては、しょうがない。
「それで、眠れなかったんですか」
「まぁその緊張で」
「そうですか、和歌子お嬢様によからぬ懸想をして、眠れなかったと」
そうはいっていないのだが、まぁお嬢様の件で眠れなかったといえば、その通りでもあるし、あたらずとも遠からずといったものだ。
むこうだって、冗談といやみで言っているだけなのだから、うろたえずにいれば、更なる余計な被害はでないと思っていたが、なおもメイドさんは怪訝な目を向けてくる所をみたら、言い訳の一つでもしておいたほうが、身のための安全になるかもしれないという、妙な緊張感で余計な事を口走りそうになるが、昨日の夜の料理でも褒めておいたほうがいいかもしれない。
「昨日の料理ですが」
「あぁ手が動かず、ほとんどいえ、全く手をつけずに残されていましたね、折角あなたにさえ料理をだしたのにもかかわらず」
やぶへびだった、味しないはずだ、食べていなかったのだから。
メイドさんの機嫌がさらに悪くなりつつ、食堂につく頃には、二人は食べ終えていたようだ、食堂にはいった僕をみるなり申し訳なさそうにお嬢様は先に食べていた事をつげ、あとで門番の方と一緒に食べるように伝えた。
「さて、それより立川さん、貴方の相棒が今朝早く届いたようなので早速ですが紹介したいのです」
「そうですか」
相棒の人がまっているなら、僕のご飯より先だろう、むしろ相棒を紹介されるのに、呑気に寝すごして朝飯を逃してしまった僕のような人と仕事につくという、罰ゲームか窓際社員をさらに追い込むような仕事をさせてしまう事に申し訳なく思ってしまう。
「まぁそんなに緊張などしなくてもいいですよ、単に助手をつけるという探偵には欠かせない環境をつくりあげるだけのことですから」
緊張というよりは、申し訳なさの心情で一杯だったがお嬢様はどうやら勘違いをしたようで、いやお嬢様が勘違いしているのはもとからか、僕のような人物を探偵として雇うのだから。
「さてあちらの布の中に相棒がおいてあります」
大広間につくとイスのようなものに布がかけられていた、その布がかけられているような形がどうも人間のようだが、わざわざ相棒となる人に布をかけるという事をわざわざお嬢様がする意味がわからない、もとよりこの屋敷というより、お嬢様にあってから意味がわからない事だらけだ。
こほんと咳払いをした後にお嬢様が布を一気に抜き取る。
そこにはお嬢様と瓜二つとまではいかないが、明らかに似ている女の子が一糸纏わぬいた。
一糸も纏っていないと裸である、女性が裸でしかも、異性に見られて羞恥から声をださないのは、よほどの関係か、そういう性癖の持ち主であるかのどちらかだと思っていた僕は、彼女がそういう性癖なのかと一瞬目を疑った、目を逸らすべきだろう、あまりじろじろ見るのはよくないと目線を逸らそうとしたときにきづく、そういえば、お嬢様もその友人も、メイドさんも一切非難しない。
お嬢様はともかく、こう言う事に常識のあるだろう友人やこう言うことに非難をするであろうメイドさんもこっちを一切非難しないというのはおかしくないだろうか。
もう一度だけ視線を先程の女の子の少女にむけると、間接部分に切れ目があることがわかる。
「ロボ和歌子初号機です、探偵助手としてお手伝いするために、この日のために作らせました」
「宜しくお願いします」
ロボ和歌子初号機という名の下につくらせたのであれば、お嬢様に似ているのは当たり前だと思う。
何せ似せて作ったのだから模倣したのだろう、それにロボットであれば非難もまちがいないだろうと納得させようとしたが、やはり常識が邪魔をする。
きちんと滑らかにお辞儀をして、言葉を発して、歩く動作も人のそれと変らない、改めて日本の科学力の凄さとか思ったが、そういう問題でもない気がする。
どれだけ未来にいけばいいのだろうか。
むしろ僕が助手でいいというかいなくていいだろうという。
間接の切れ目というのも隠せるんじゃないかとかくだらない考えも頭をよぎってくるが、一番しっくり来る言葉がしらずに出てしまった。
「無駄遣い」
そう無駄遣いと言う言葉が、僕の中でまとまってでたのがその言葉であった。
「まぁそうですね、立川さん一人でも解決できるでしょう、確かに無駄ではあるかもしれませんが、探偵に助手がいるのは私のイメージでもあるので、そこは目を瞑ってくれるととても嬉しいです」
お嬢様は自慢げに再度微笑み、それをみた探偵助手はこくりと再度のお辞儀をした。
「それでは所長よろしくおねがいします」