探偵は伝え名探偵となる。
探偵とは諭すもの。
まぁ、よく出来た聖人君子の探偵ならそうだろう。
自分の気持ちに正直で、他人事に首を突っ込み、被害者の気持ちに寄り添い、加害者の事情すら汲み取る。
その上で、人生を諭していく。
立派だとしか言いようがない。
探偵によっては、犯人の心のケアすらしているのだ。
何故そこまで出来るのか、やはり犯人にそこまで出来る探偵は、確かに名探偵であり、僕のようなものとは、人格じたい格が違うのだろう。
何せ諭してくださいと言われても、何も出ない、いやありふれたような言葉でも良いはずなのに、その言葉で、和歌子お嬢様に何を諭せと言うのだろうか。
「どうかなされました」
「いえ、どうも諭すと言う事が出来ないので、どうしたものかとそこまで出来る程に、僕自身できた人間でもないし、和歌子お嬢様の事情もよくわかりません」
「なるほど、でもまぁ確かに、私の事情を私が語っていませんし、犯人としての役割を果たしていないのだから、探偵として諭すことの役割が、出来ないとそう言う事でよろしいでしょうか」
何かは伝わったのだろうが、和歌子お嬢様の答えは、どうもズレていたのだけど、先程期待に応えて、この事件を終わらせようとか、この事件を解決するのが、僕自身の探偵としての役割だと思った手前、曖昧に頷くことが、僕に出来る事だった。
「そうですねぇ、事情と言っても最初に言った通り以上の事は、でないのですが、なら今回の事件語っていない部分でもお話でもしましょうか」
「語っていない部分ですか」
「はい、今回何故火をつけた犯行にしたのかです、もちろん今回の事件は、大方立川さんが推理した通りです、証拠も証言も集めないと言うのは、立川さんを侮っていました」
「他にも理由があるという事でしょうか」
「はい、聡明な立川さんの事ですから、薄々感じていたのでしょうが、容疑者を特定されない様にです」
「特定されない様にですか」
「はい」
確かに、火災ならば力任せに殴ったとか刺されているとかで、特定される場合もあると言うのは、聞いたことがあるが、ただそれは鑑識や経験豊富な探偵、医者などの専門家がいた場合の見解であって、僕がその状況で容疑者を絞ることは出来ないと思う。
決して、川中さんや緑川さんが力が強いという事は、関係がない。
くだらない事へ思考が飛びそうになったが、容疑者を絞ることが出来ない為に火を使った犯行にしたというのは、些か考えもつかなかった。
容疑者を絞ることが、何か不利益でもあるのだろうか、容疑者を公平に扱うこと、誰にでも和歌子お嬢様を殺せたと僕に思わせたかったのか。
あぁ、ある意味公平に扱う意味があるとするならば、今思い当たったのが一つある。
「共有ですか」
「はい、ご名答です」
罪悪感。
責任。
考えてみたら、あの馬鹿みたいに大きい屋敷を燃やすと言うのは、労力がかかるだろうし、和歌子お嬢様が一人でやるはずもない。
屋敷のあちら此方で、パーティーの為に呼ばれたメイドさんが火をつけていたのだろう。
主の命令であれば、聞かないわけにはいかない、一人ではなく皆で共有することで、罪悪感を薄め共有することで、自分一人が逃げだせないようにした。
パーティーに備えて模様替えをしていたのではなく、この事件の為に燃えやすいものに変更したりしていたのかもしれないし、緑川さんも、川中さんもこの計画に乗ったのだろう、和歌子お嬢様が命の危険がないこの事件の計画なら乗ったのかもしれない。
「まぁこんな所ですかね、さて立川さんどうですか」
諭してくださいと言われてもますます、困ってしまう。
こんな事をしてなんの意味があると問う声など、彼女は何度も聞いているのだろう。
それでも進む彼女を止める言葉など、僕は持ってなどいない。
それでも和歌子お嬢様の探偵として声をだすとするのならば。
頭を掻きながら、探偵として伝えた。
「貴女の殺人事件の真相を僕の人生をかけて解決出来なければ私の勝ち、解決出来るならば僕の勝ちという事ですが僕は僕の人生をかけて迄犯人を諭すことはできないでしょうね」
「そうですか」
「ただ、多分きっと和歌子お嬢様、貴女が殺されるならば、きっと貴女の理想通り貴女が仕組んで貴女は殺されるのでしょう、貴女を最も理解して、愛し、貴女の理想のままを受けとめて、貴女を止める事をしない方が犯人なんでしょうね」
「なるほど、そうですか」
おかしいものを見る様に笑いながら、和歌子お嬢様は多分理解してくれたのだろう。
起こってもいない殺人事件の犯人を推理する馬鹿げた探偵とその依頼人
結局のところ勝ちも負けもなく、引き分けだと言う事だと。
「まぁ演じるだけ、滑稽というものね、やっぱり立川さん貴方はそれでもやっぱり名探偵ですよ」




