探偵と疑い
「なんですか、私の顔が綺麗な事は疑いようもない事実ですからそんなに見ないで、とッとと皆さんに話を聞きに行きましょうよ」
考えもまとまらず、閃く事もない僕の重い腰を動かす為とはいえ、ボォーと何気無く見ていたとはいえ、何を呑気な事を言い出すのか。
ロボ和歌子初号機の顔が綺麗な事は、モデルである和歌子お嬢様が綺麗な顔だちをしていたからだろうと、言いかけた時に、思ってしまった。
いや、ある見方をしてしまった。
それにより、疑いが生じた。
もちろん、疑うべきではないはずの事柄である。
何故ならば、疑う心は心に暗闇をつくり鬼を住まわせることになり、やがて鬼へと至る。
だとするならば、常に疑う事を生業としている探偵というものは、鬼のようなものなのだろう。
疑う事から始まり、好奇心から人の心を踏みにじって、真実を嬉々として掴みながら、悲しい事件だったと言う様に大仰に事件を纏めるその姿は、まさに鬼と言っても過言ではない姿に映るのかもしれない。
もっとも悪意のある見方をすれば、今の様に、探偵ですら鬼に見えるという事だ。
それだけのことだ。
つまりは、僕は悪意を持っていると思うし、疑うべきではない事を疑おうとしている。
疑う心というものは、目を曇らせる。
事件が闇の中にあるのなら、更に目が曇るのならば、探偵としては疑うべきではない。
しかし、妙にしっくりくるのだ。
無理矢理に点と点を悪意をもって引っ張ったら、事件が解決しそうな気がする。
ただの妄想としての域を出ていない。
確かめればいい事だ。
いつも通りに、きっと冗談は顔と心と存在ぐらいにしてくださいよとでも、返してくれるに違いない。
妄想が現実になるか、妄想は妄想のままで終わるか聞いてみればいいだけの話だ。
「ロボットが人間の代わりに世界を支配する話って、現実だとどうなんだろうね」
「なんですか、藪から棒で頭を殴られたみたいな挙動不審な問いかけは、所長の神経を疑いますよ、存在しているかどうかのレベルで」
「いや、SFとかだとあるから、それが現実だとどうなるのかなって思ってさ」
「あぁつまりは、所長は、探偵助手である私を疑う事にしたんですね」
「まぁ、想像したらさ、結構しっくり来ることのほうが多くて」
「なるほど、なるほど、まぁつまりは私がお嬢様を殺して、お嬢様になりかわると、そういう推理ですか」
ロボットが人間を支配する話というものは、皮肉にも、フィクションの話レベルでは済まなくなってきていたりする。
でも、そうじゃなくて、僕が聞きたかったのは、そこではない。
少し遠回りすぎた。
もっとうまく聞くべきだ。
「ロボットが人間の代わりに仕事をやるという事は良くある話だけど、ロボ和歌子初号機は、本当に探偵助手として生まれたの?」
「そこまで質問するという事は、所長は辿りつけているんでしょうし、これ以上は、本来は私の役目ではありませんが、あえて言わせてもらうとすれば、犯人にとっては泡沫の夢でしたね、所長の推理が正しければの話ですが」
さぁ行きましょうと、ロボ和歌子初号機は先導する。
この事件の犯人のもとへと。




