探偵と光景
部屋から出ると、和歌子お嬢様の部屋へと足が自然に向いていた。
火の勢いは次第に大きくなっていくのもわかるし、僕が向かわずとも、それこそ川中さんが、呼びかけに行っている可能性が高いし、そもそもの話、屋敷の何処にいるのか、実際の所は、感任せとしか言いようのない愚行である。
そして、ジリジリと背中を焼くような熱さに、焦り、不安がさらに、僕を疲弊させていくが、足を早めることしかできない。
長い廊下を恨めしく思うし、僕自身の体力の無さも痛感するし、どうにも出来ないくせに、何故走っているのか。
和歌子お嬢様の部屋の前にようやく辿りつく頃には、走ってきた廊下に比べて、火の勢いが強い気がする。
そして、和歌子お嬢様の部屋に到着すると、部屋の扉は空いており、簡単に部屋の中を見れる状態ではあった。
部屋の中には、まるで壁があるように、燃え盛っていた。
「和歌子お嬢様」
声をかけても返事をする事はなく、
部屋の炎に囲まれていた彼女は、実に満足げに微笑みながら、椅子に括りつけられ座っていた。
そして、揺らめく炎の中に壁の文字は、天誅の文字が書かれていた。
それで、全てを悟れと言うように、これ以上の疑問も持てぬように、部屋の炎がおおきく、うねりだしてきた。
「何をしているんですか」
駆けつけた、緑川さんに言葉をだそうにも、どう出したら良いのか、さっぱりわからない。
緑川さんは、扉の前に立つと全てを察したのか、目を伏せて僕の手を引いて、駆け出した。
本来ならば、しっかりしないといけないのは、僕自身は分かっている。
いや、しっかりした所で何も出来ないのだから、この役割に本来も何も無いのだ。
手をひかれるままに、屋敷の外にでて、安全な場所へ放っておかれた。
気丈に、そしていつも通りに、川中さんは、メイドの仕事へと戻っていった。
しばらくすると、ロボ和歌子初号機が、近くへとやってきた。
「所長、聞きましたよ大変だったようですね」
「あぁ」
「さて、所長犯人は誰でしょうね」
燃え盛る部屋で、椅子に括りつけられ満足げに微笑む。
あんな光景を見てしまった。
和歌子お嬢様の言葉通り、楽しみにしていた時間が訪れていた。
待ちに焦がれ、ついには本当に焦がれてしまったように。
助けに行ったのかもしれないし、その光景を探偵として、見にいったのかもしれない。
探偵は殺人現場をみるものだから。
彼女が待ち望んだ探偵なのだから。




