探偵とパーティー
ドラマや小説などの探偵というものは、パーティーに参加していることも多いものである。
例に漏れず、僕も出席しているが、気後れしている。
ドラマや小説の探偵たちは、よく緊張せずに過ごせるものだ。
いや、僕が感じているのは緊張とはまた別のものだろう、対して仲もよくも無いクラスメイトの誕生日会に出席したかの様に、場違いという感覚が近いとでも言うのか、何やらズレがあるのだ。
お金持ちのパーティーと言うのは、華やかさに彩られたものと思っていたが、和歌子お嬢様の家族以外楽しげな雰囲気は、だれも出しておらず、皆どこかしらのぎこちない感じがあり、様子を覆いあっているせいで、そのような事を思ってしまったのかもしれない。
まぁ異質というか、出落ちのような格好の僕がいるせいなのかもしれない。
書生の格好にうだつの上がらない様な雰囲気の僕が、お金持ちのパーティーで談笑しているほうが違和感がある。
この様な雰囲気で、小説や漫画に出てくる探偵達の様に、気にせず飲み食いや周りをウロウロするという事は出来ない。
何せ緑川さん曰く、大企業の社長は言うに及ばず総理大臣も、いるそうだ。
お金持ちともなると、総理大臣すら私用のパーティーに呼べるのかと感心するより他ない。
そんな来客もいるのだから失礼な態度は愚か、大人しくしていろと注意されたばかりの状態で、失礼な事を考えていたなどと知れたら、痛い目に会うのがわかりきっている。
僕に出来る事は目をふせ、緑川さんの側をなるべく離れないようにしながら、一刻も早くこのパーティーが終わるのを待つという、エスコートもパーティーを楽しむという事も放棄する事だけだ。
いや、これも失礼だとは思うものの、何かやらかすよりは大分マシであろうことは、緑川さんの暴力がなく、呆れたため息が証明してくれた。
この様なパーティーの中で、和歌子お嬢様が殺されないようにと二重の意味でも祈りながら、時間を潰していると、パーティーホールの壇上に和歌子お嬢様と、白い布が被されたかなり大きめの台座が、スタンバイされていた。
「皆様、お待たせしました、本日は私ども折神家は次世代への第一歩の技術開発として、人形を開発しました」
和歌子お嬢様のいつにも増して、凛と澄み渡るような声が、マイクを通してホール中に響く。
皆の期待と興味がその白い布を取り外された。
舞台上に現れたのは、和歌子お嬢様の生き写したように精巧と言うより見分けのつかぬ生きている人形というべきものだった。
「皆様はじめまして、私は和歌子初号機です」
淀みなくお嬢様の声で、その人形が挨拶をしてお辞儀をし、一通り優雅にダンスホールを周り、会場に来ていた一人一人と談笑をこなすその振る舞いは、従来のロボットの領域から越え、お嬢様の仕草を完璧にこなしていて、会場に来ていた方々からも、その技術力などから賞賛されていた。
しかし僕は猫もかぶれるスペックの高さこそ賞賛出来るものだろう。
皮肉げにそう思う。
そしてそれは、和歌子お嬢様だって、自分が殺されるという事を信じているという事を隠してしまえば、ロボ和歌子初号機と変わらず優雅なお嬢様であるという点は似ている。
賞賛を浴びながら、にこやかに笑う少女達の笑顔でパーティーは幕を閉じた。
そして和歌子お嬢様がパーティーで殺されるという事はなかった。




