探偵と飛び火
0か1かで判断出来るのは、機械ぐらいのものだ。
僕が生まれる以前から当たり前のような常識だが、人は正しいと分かっていながらも、正しくない判断をする事がある。
曖昧に誤魔化すこともある。
意図的に誤魔化すこともある。
盲目に信じているのかもしれない。
なぜならば、人には情があり、しがらみがあり、苦痛があり、快楽があり、過ちがあり、性格があり、人間関係を壊す勇気が不足している。
何気無く言ったことでさえ、ひび割れ、壊れていくような薄っぺらいものだけど、それ故に大事にしたいものだからだ。
壊れたときにもしかしたら、事件がおきるのかもしれない。
それはもはや防衛本能と言っても、あながち間違いでもないような気がする。
機械には、人間関係など関係なく、与えられた命令で動く。
「ロボに人の心などわからない」
「人も人の心などわからないですよ」
「そんな事ある訳がないだろう」
真っ赤に燃える憤怒の心を映し出したかのように、紅いドレス姿で表現した様な、緑川さんは今にも僕にもその炎を噴火させて、飛び火せんばかりの勢いで怒っている。
それはそうだろう。
パーティーの準備が出来たとわざわざ僕を呼びに来てくれた緑川さんに対して、和歌子お嬢様が殺されるとしたらパーティーのある今日で、犯人は、和歌子お嬢様のご家族の可能性が高いんですけど、何か知りませんかとズケズケと聞いたら、機嫌も悪くなる。
家族ぐるみのお付き合いもある親しい友人の家族を、殺人の容疑者とみてますなんて、言ったら怒るのも無理の無い話である。
今僕のお腹が痛いのも、緑川さんの怒りを考えたならば、これも当然の事である。
チッと苦々しくも舌打ちしながらも緑川さんは、パーティー前という事もあるのかこれ以上は、怒りを抑えてくれるようで、パーティーのサプライズとなっているロボ和歌子初号機をたてての事だろう。
いや地味に怒っている。
なぜなら行くぞと引っ張った手は、僕の手を握り潰すがごとく力強いものだった。
「所長問題を起こさないで下さいよ、そちらも眉間に皺寄せてると、折角のパーティーが台無しですよ」
ロボ和歌子初号機にお前が言うなと伝えたいが、痛みを我慢しているこの身では伝える事は出来なかった。
事件が渦巻いているかもしれない、お金持ちのパーティーという未知の世界への言いようのない感情もまた、痛みに消えていった。




