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メイド

  大きな屋敷のドアを開けると、半ば予想をしていたが、玄関さえ広く、上を見れば、豪華そうな天井、広く長い廊下には、割ったら一生働いても返せ無い金額になる事は、確実なような気がする大きな花瓶、下を見れば、実家にあるような足拭きマットとは、一線を画するどころか、踏みつけてもいいのかと躊躇うぐらい綺麗な絨毯が敷かれていた。

  そして、その屋敷に調和するかのように、黒と白のメイド服に身を包んだ、女性が一人立っており、此方にというよりは、お嬢様とその友人の帰宅を歓迎していた。


「和歌子お嬢様、お帰りなさいませ、緑川様もよくいらっしゃいました、本日はお泊りになられますか?」

「そうだな、うん、そうするよ、むしろしばらくこいつを見張るから、2、3日泊まりたいんだけどいいかな?川中さん」


  メイドは何を言っているのか分からないと示すように小首をかしげると、後ろでくくった三つ編みがそれに呼応するかにように、揺れた。


「どなたかおりますか?」


  このメイドの彼女は、メガネだから、目が悪いのだろうと楽観視する程に空気が読めないわけではない。

  彼女は、当然ながら僕を迎え入れるきなど、無いと言うことだろう。


「そういえば和歌子お嬢様、探偵は諦めたのですね、本日お見えになるという事でしたが、見つかりませんでしたか」

「よしみ、そちらの彼が私の連れて来た探偵の立川一姫さん」


  どのように挨拶すればいいのかわからず、愛想笑いにしても、最低なかわいた小さな笑い声とともに頭を下げるぐらいしか出来なかった。


「和歌子お嬢様、そのぼさっとして、人生に華が咲くことのないような、うだつの上がらない、甲斐性というものがないだろうと思わしき、馬の骨がお嬢様のいう探偵でしょうか?」


  初対面の第一印象として、罵倒される点しか出てこないという赤点も同然のような評価を貰ってしまった。


「失礼ですが、和歌子お嬢様私には、聡明な方には見えないんですが、もしかしてそう見えるだけでしょうか?」

「川中さん、こいつ折神の名前すら知らない、無知なやつだよ」


  その言葉を聞いた、メイドさんは信じられないものを見たように、メガネを外し、2、3度目をこすり、そしてポケットからメガネ拭きで、メガネを綺麗に拭いて装着した後に、笑った。

  実に芝居かかった声色で笑う。


「緑川様、ご冗談がお上手ですね、犬や猫でさえ、折神の名前を知る様な現代社会において、知らない何て事、ましてやそれこそ探偵という仕事をやるお方が知らない何て事あるはずもありません」


  新人をいびるお局候補の様に、あからさまなイジメと思われる言動に、口ごもり、言い訳めいた、言葉は出かかるが喉より上に出ようとすると言葉は急激に引っ込んでしまい、そのかわり、ふひひと変な笑い声が出てしまい、メイドさんは芝居でもなんでもなく、何だコイツという目で見てくる。


  恥ずかしさで、逃げ出したくなる、事実足は知らず、知らず後ろへとジリジリ後退している、そんな僕にとって居心地の悪い空気感を、払拭するように、お嬢様が口をひらいた。


「よしみ、探偵は立川さんよ」

「和歌子お嬢様、何故ですか」

「私のイメージする探偵にピッタリだからよ」

「和歌子お嬢様、探偵とはイメージで選ぶものでは無いでしょうに」

「えぇですからよしみ、貴女も先入観で否定するのはおやめなさい」

「先入観ではなく、事実を述べています、探偵を雇うにしても、マシな方がいるでしょうに」

「川中さん、私もソレ言ったよ」

「とにかく、事件を解決する探偵は立川一姫さんだと私は信じていますし、彼以外の探偵を雇う気もありませんし、解雇も辞める事もさせないと言う事は決定事項です」


  異論は認めませんとばかりに、笑顔をむけて、廊下を歩きだしたお嬢様の後を追いながら、本当にどうしてこんなヤツを探偵として雇うのかと、呪いの言葉を吐くメイドさんと、その言葉に反応し、共鳴するかのように睨みつけてくるお嬢様の友人の少女。


  いっそのこと、本当にいっそのこと、逃げだせればどんなにいいだろうか、メイドとお嬢様の友人が言うように、自分よりもっとマシな人材がいるのにと思う、でも実際は逃げだせずに、流れるままに、此処まで来てしまっているという事は、どこかで心の片隅で、何か出来ると錯覚し続けている自分がいると言うことだろうか?

 

  多分、錯覚だよと言うよりも、絶対に錯覚だよと僕自身に言いたい、何せ僕が探偵になれるわけもない、今だって、今になってもどんな事件を解決すればいいのかすら聞いていない、間抜けな僕に、出来る事と言うのは、錯覚だ。


  身体に何か当たったような気がした、考えながら歩いてしまって、誰かにぶつかってしまったのだろう、すいませんと謝るまえに、すごい勢いで僕は倒れた。

  何かではなく、人の拳が顔面に当たったのだとわかった、仁王立ちと言うのは彼女のような人に向けて作られたのだろう。


「セクハラとはいい度胸じゃねぇか」

「和歌子お嬢様、本当にこの方でよろしいのですか」


  なんでだろうか、僕がセクハラしたみたいになっているが、決してしていないし、理不尽な暴力が振るわれたような気がするが、痛みで床にのたうちまわっている間抜けな僕には弁解する余裕もなかった。


「ぶつかっただけでしょう、やり過ぎよ」


  悪びれる事なく舌打ちし、緑川さんは威嚇した。


「さて、立川さん此処が今日から貴方のお部屋となります、荷物を置いて着替えたら、大広間までお願いします」


  部屋を開けてみると、和室と書生の着物が置かれていた。

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