探偵と不安なフラグ
何にだって、不安というものは存在する。
挙げようと思えば、キリが無いくらい、不安というものを抱いてしまえば、際限がないように、不安が大きく、そしてまとわりつく。
そして、不安は狂気になり、人の背中を押してくれる。
動機として、それは十分ではなかろうか。
将来への不安。
信頼への不安。
持たざる事への不安。
対人関係の不安。
日常への不安。
そして正しさへの不安。
人を殺そうとするには、十分すぎるほどではないだろうか。
「私にとって素晴らしい日の前の日には、フラグとも呼べるような、探偵との楽しげな会話と、寂しそうな笑顔が、つきものではあるのですが、さすがに寂しいと思うのは、無理なので、楽しげに会話をしようと思うのです」
「そうですか」
確かに、殺される数日前には、お嬢様と探偵が、楽しげな会話をした後に、それをかわきりにというわけでもないが、お嬢様が殺されるというのは、ある意味お約束ではある。
まさか、あんなに楽しげだったのにと言うやつだ。
しかし、パーティーまでは、あと2週間程度はあるし、こんな夜中に楽しげに談笑するという度量は、僕には備わってなどいない。
和歌子お嬢様と夜中に2人きりになるという、声も裏返りそうになるほど、緊張感とかに苛まれている。
考えようによっては、外見は、ロボ和歌子初号機と同じであり、中身が違うだけのロボ和歌子初号機と2人きりになっても、今抱いているような事は、何も思わないだろう。
もういっそのこと、川中さんに殴らてもいいから、川中さんが部屋へと乱入してきてくれないだろうかと、切に願いたい。
「それで、何の話をしましょうか」
楽しげな話題がないので、お嬢様に尋ねる。
「そうですねぇ、では容疑者が揃ってはいませんが、立川さん的には、誰が私を殺すと思いますか?」
「それは楽しい会話ですか」
「私にとっては、楽しいですよ、それで、誰が私を殺すと思います」
話を反らせるどころか、前のめりになったように思える。
「手がかりはないですから、サッパリです」
「そうですか、立川さん的には、敵もさるものという事でしょうか」
そもそもが皆、殺すわけがないと思う。
門番の茂田さんが、お嬢様だけが殺されることを願っているだけだと、
言うのは当然であるし、メイドの川中さん、和歌子お嬢様の友達の緑川中さんも、当然お嬢様を殺そうとなど、思っていないだろうし、ロボ和歌子初号機から見ても、あり得ないという。
きっと和歌子お嬢様の家族だって、殺すだなんて、思っていないだろう。
そして、それは正しいのだろう。
だけども、和歌子お嬢様も、自分が殺されることを当然だと思っている。
「そうですね、ままなりません」
「それでも、最後には、立川さんが解決してくれる事を期待しています」
「はぁ頑張ってみます」
「手がかりになるかはわかりませんが、フラグのようなものを立てておきましょう」
「フラグですか」
和歌子お嬢様は、そして、微笑みながらいった。
「きっと犯人は、正しいと思って私を殺すんですよ」
「正しいですか」
「えぇ、つまらない正しさが、私の浪漫を叶えるということになれば、私にとっては、最高ですから」
そのフラグめいた言葉に僕は、気の利く言葉などでなかった。




