探偵と読書
心を休めるために、読みはじめた小説の効果か、それともここ最近の、心の疲弊のためか、読みはじめた小説の中盤までは、まだまだ意識があったのだけれど、それ以降は、睡眠薬とかしてしまっていた様だ。
借りものの小説なのに、変に痕のついてしまった小説のページをみながら、やってしまった感があるが、幸いどうにかこうにか伸ばしたり、戻そうと試みれば、どうにか誤魔化せそうな状況であること、もっと幸いなのは、僕が寝ている間に、ロボ和歌子初号機は、何処かに行ったらしく、誰もいなかったと言う事だろうか。
いや、借りものなのに、痕をつけてしまった点については、反省はしなければならないのだけど。
癖のついたページを直しながら、なんとなしに、入ってくる文面では、探偵に好意ゆえか、それとも彼女の育ちの良さゆえの優しさからか、探偵に親しくしてくれて、そしてそれ故か、探偵が好意をむけた良家のお嬢様が、殺されてしまっていた。
悲しみにくれる探偵に、全くもって申し訳ない事に、僕は寝てしまい、あろうことか、本を傷つけるどころか、悲しみにくれる探偵を、放っておいて、眠ってしまったのだと、思うと、何処となく気まずさも感じてしまうというものだ。
「彼女を殺した犯人を俺は、許さない、必ず捕まえてみせる、彼女のために」
そしてこんな一文が目にはいった。
随分と決意めいた、勇ましい台詞であるのだが、果たしてそれは、彼女の願いだろうかと、ふと思ってしまった。
それは、本当に彼女のためになるのだろうか。
もちろんそれが、随分と意地の悪い考えであるし、どうしようもない考えではあるのだけど、事件を解決しても、彼女が還ってくれるわけでもない。
探偵として、彼女の死を無駄にしない様に、犯人を捕まえるために、死体や辛い出来事を思いだす事が、探偵にとって、彼女のためになるのだろうか。
それより、探偵が危険な目にあわず、この事件から、身をひいて欲しいと願っているとは、思わないのだろうか。
何事よりも、その身を案じていたとは、思わないのだろうか。
和歌子お嬢様のように、殺されることを願っているかのように、そして自身の殺人事件を解決する様にと、依頼されたわけでもないはずなのに、何故だろうかと思ってしまう。
ここで気づいてしまう。
いや、いや、そう考えるのであれば、僕こそが、先程の勇ましく、気恥ずかしい台詞を言うべきなのだろう。
小説の探偵の決意をどうしようもない、いや彼女の願いを疑った罰だろうか、僕自身に、まだまだ恥ずかしさが残っている事を、再認識してしまった。
僕の恥ずかしさを、そして反省させるために、探偵の決意を成就させるために、癖をなおした小説を、最後まで読み直すことにした。




