探偵と雨
晴耕雨読、晴れている時は、畑をたがやして、雨がふれば、大人しく本を読むという、随分と出来た人間の考えである。
いや、随分と古い考えではあるのだが、晴れている日は頑張っているのだから、休みの日は、本でも読んで勉強して、身体をやすめ、心を休めなさいと言うことであろう。
つまり、この言葉にならうのであれば、雨でも頑張らないといけないと言うことは、晴れの日に頑張っていないか、心が休めていないと言う事であろう。
外の雨に影響されてか、こんなにも憂鬱なのだから。
「所長、何しけた面しているんですか、元から陰気そうなんだから、その調子だとキノコが生えそうですよ、ちなみに調子と胞子をさり気なくかけた、私なりの冗談はどうですか?」
ロボ和歌子初号機の、相変わらず笑ってもいいものなのか、判別すら出来ないし、さり気なくという割には、自分でそれを伝えることで、面白くないのだけど、しけた面と言われても、しょうがないというぐらいに、心が休まっていないのだ。
原因は、あの報酬である。
多すぎる報酬に、心が休まっていないのだ、人生で自分が稼いだ以上のお金が、手元にあると言うのがどうにも、心が休まらない。
「お金が入って悩むとか、何を馬鹿な発言しているんですか、世の中舐めて生きているんですか?」
「いやまぁ、馬鹿げているとは僕自身も思うけど」
「なら貰っておけばいいじゃないですか、お金は大事ですし、そもそも働いたらお金を貰うのは、社会人として正しい事ですよ、世の中には働いているのに、給料を渡さない探偵事務所の所長もいるぐらいですから」
そういえば、ロボ和歌子初号機に渡すのを忘れていた。
「それなりに尽力している助手を都合のいいモノか何かと思って、給料を渡さない探偵事務所の所長がいるぐらい、世の中はブラックめいているのですから、給料を貰って何しけた面しているんですか」
多すぎると思っていたが、ロボ和歌子初号機の分も含まれていると考えれば、いや考えたとしても、やはり多すぎるとは思うが、ロボ和歌子初号機にも渡せば、心が休まるはずである。
「貰ったお金を給料として半分くらい渡すよ」
「所長、ロボットに、お金は必要はないですよ、かっこ良く言うならば、お金など無価値ですね」
「じゃあ、なんで求めたのさ」
「貧乏な探偵事務所の助手ならば、給料の催促をするものじゃないですか」
「結局振り出しか」
「まぁ所長、考え方を変えてみたらどうですか」
「考えかたをどう変えろと言うのさ」
「貰ったものが、お金であるから悩んでいるのであれば、違うものを貰ったと考えればいいのです」
「例えば?」
「貰ったのが、全部ニセ札」
「凄く心労が余計に溜まりそうなんだけど」
「貰ったのが、表には出せないようなニセ札とか犯罪めいた事情があるから、ポンと所長に渡せたと考えれば、所長も気にする事なく受け止める事が出来るでしょ」
何処をどうしたら、気にする事もなく受け止める事が出来るのだろうか
「そう言った最悪の事態より、探偵として真っ当に働いたお金なんですから気にする事ないんじゃないですか」
全然、解決していないんだけれども、多少マシに思えてくる。
「後は、何かあった時に事務所のお金として残しておけば、良いんじゃないですか」
「そうだね、出来ればそれを最初に提案して欲しかったね」
「所長が真っ先に思いつくべきですよね」
ごもっともな意見である。
多少の気が晴れたとはいえ、外はまだまだ雨が降っている。
お嬢様が集めている本棚に並ぶ推理小説の本の中から出来るだけ読みやすそうな、表紙と薄さの推理小説を読みながら、心を休める事にしよう。




