探偵と後悔
探偵とは何かと問われれば、きっと多くの人が、最初に思い浮かぶのは、絵空事の探偵だろう。
絵空事の探偵達は実に見事に、事件に遭遇し、事件を解決してみせる。
そんな絵空事の探偵達は、本物の現実の探偵以上に探偵らしい。
実際の探偵は、調査が主で、行方不明、浮気、その他諸々を探していき、その調査内容を依頼主に報告することだという。
そんな調査する人物に憧れる人は、実に少数だろう。
探偵に憧れるのは大抵、推理小説や推理マンガの探偵かぶれの人間だとおもう。
鮮やかに、そして実に見事に、解決していく人物を名探偵と呼ぶ。
名探偵は実にヒーローのようである。
ただ、ヒーローと違うのは、名探偵に憧れはするものの、名探偵になれないというのが子供心にも分かるのが、いや子供でも分かるのが探偵と言うヒーローだ。
つまるところ、探偵というのは憧れだけの存在であり、それを職業にするというのは、子供でも遊びでもしないだろう。
しかし、折神さんは、僕を探偵として雇うという。
住み込みとして荷物をまとめようと、手は動かしているが、頭が動かない。
あのお嬢様は何を期待しているのだろうか、何をもとめているのだろうか。
頭が動かないまでも、手はどうにか動いていたおかげで、着替えや、身近な生活用品、数冊の申し訳ない程度の参考書だけカバンに詰め込みがおわると、バック一つで事が足りる。
田舎から出てきたときと同様の量の荷物。
つまりは、何も増えることも減る事もない、成長も何もしていない証だと、誰かに言われてもおかしくないのに、そんな僕に探偵ができるはずもないのに、引き受けてしまった自分のどうしようもなさが、悔やまれる。
やる前から、後ろ向きに考えてしまうのはどうかと思うが、就職、バイト前に始まる上手くやっていけるかどうかという不安を背負ってしまったような、気の重さが、後ろ向きな考えをさせてしまうのだろう。
探偵ならば、解決策の一つや、二つ思い浮かぶものだろうが、そもそもの話として、探偵として働けと言われたという問いならば、探偵はそのまま探偵として働けとしかないだろう。
しかし、僕は探偵などやったこともないのだから、その探偵としての働き方すら知らない。
埃かぶっていた参考書のように、わからないと放置してしまおうか。
なるようにしかならない、流れに乗っていくつくまま、身を放り出して、思考停止して、眠りについた。
翌日に思考停止したことを後悔した、いや後より先に、僕自身、なにをどうすればいいのかと言うぐらいの迎えだった。
最寄り駅、たまに使う駅にベンツだっただろうか? 名前もでないぐらいに、度肝をぬかれた。
ただ、黒く長く、高級であることと、場違いであることだけは、間違いようがなく、そして、片方は、見間違えることすら出来ないぐらいに、お嬢様らしく、優雅に微笑みながら、もう一方は、敵意を見せるかのように、舌打ちをしながら、出迎えてくれた。
覚えているのはこのぐらいだった、いや覚えていれたのはこのぐらいだった、高級車の中にあったのは、安らぎを覚える為に、設計されたであろう座席のはずなのに、一般人が乗れば、あぁもくつろげないものだとは、思ってもいないという点、そしてビルの屋上から、自家用のヘリに乗せられて運ばれた。
その後の記憶がないものだ、道中お嬢様がなにか、説明をしていたような気もするし、ただ微笑んでいたかもしれない、舌打ちや嘲りの声を聞いたかもしれないし、只々呆れ果てていたのかもしれない。
数時間しか立っていないはずなのに、この身に起きた事さえ、信じられないような場所へと僕は立っていた。
立っていた、立ち尽くしていた、自分を乗せていた飛行機が飛び、そこから更に高級な車に乗せられ、車は街を走り、着いた場所は、自分がいったことのある観光名所よりも綺麗で壮大で、豪華だった。
どれだけお金をかけているのか、想像もつかないぐらいに、いや多分僕には、一生縁のない額だろう。
そして、足が動くのを拒否するぐらいに、入りたくなかった。
街で、場違いなお嬢様の屋敷で、住み込みで働くということは、自分が場違いな場所へと向かうと言うことだ。
お嬢様が悠々と堂々と屋敷の門を当たり前のようにくぐり、あいもかわらず此方を隙あらば、噛みつこうとしている少女も門を通っていた。
恐る恐る門を通る時に、門番の青年は、お気の毒様とだけつぶやき、僕が屋敷にいく姿をみていた。
僕の後悔をたつように、門番は門を閉めた、逃げることをまるで許さないような音に聞こえ、自分の身体からふひひと音がなった。