探偵とプロファイリング
探偵として少なくとも成長というものをしなくてはならないというのは、漠然とした危機感からくるものなのか、それとも雇い主であり、お嬢様からの期待から逃げるためのものか、期待に応えたいという義務感からくるものかは分からないが、とにかくなにかやらねばならない。
そうはいっても、何かするの何かが分からないのが一番困る現状である。
そう考えると真っ当な受験生だった頃には、困ることなどなかった。
受験の為の 勉強をすれば何かをやっている実感もあったし、不安が払拭出来ていた様な気がしていた。
もっとも、その努力は浪人という現実を前に、すっかりなりを潜めている。
何しろ本来であれば、浪人というのは、勉強してしかるべきなのに、純粋に頑張っていたとも言える数ヶ月より、結局ダラダラとしている期間の方が長いのだから。
未練というのだろうか、吹っ切れもせず、かといって立ち向かうには、もう遅いと何処かで思っている。
だから立ち止まっているのだろう。
「名探偵になる為に何をするべきかですか」
でも、とりあえず何かできる事はあるかもしれない、ここはひとつお嬢様達に助言を求めることにしたのだ。
和歌子お嬢様であれば、何かしらの答えないし、ヒントがあるかもしれない。
「それでしたら月並みですが、他の探偵の方のやり方を取り入れたり、模倣すると何か違いが見えて、参考にはなるかもしれません」
「何を学んだら役に立つのか分からないのが問題でして」
「自分で考えろよそのぐらい」
彼らが名探偵と呼ばれる事は多々あっても、名探偵になる為にしている描写などは、ほとんどの探偵の物語でみたことも聞いた事もない。
探偵は事件が起きてから動きだすように、彼らは物語が始まる頃には、すでに探偵であり、名探偵である。
事件を解決するにあたり、探偵として活躍すると志して、特に何かをしているわけではないとまでは言わないが、まるで事件を解決するために学んだ事があるかのように、ピンポイントで詳しいものがあったり、もとより天才的な頭脳の持ち主だったりするものだからタチが悪いとも言える。
「立川さんは、そんなに心配しなくても名探偵と呼ばれますよ」
「いや、その考えはどうかと思うぞ、こいつがどうやったら名探偵と呼ばれるのか想像すらできないし、
とりあえず一般常識とか腕力とか諸々足りないものを補ったらどうだ」
「一般常識はそれなりにありますよ」
「お前はねぇよ、一般常識」
もしかして、お金持ち界隈の一般常識だろうか、それならば無いと言われても致し方ないと思う。
もっとも、緑川さんがそういう意味合いを込めていないと言う事は分かっている。
含めるにしろ、含めないにしろ、僕が思っているよりもずっとずっと足りていないと言う事だろう。
「あっそうだ、どうせなんか一から学ぶならプロファイリングってやつで良くね」
「それは難しいと思う」
「やってみりゃあいいだろうが」
そうは言っても、やはりそんなに簡単にプロファイリングにチャレンジできる程に、基礎がない僕にプロファイリングの難易度というのは、尻込みしてしまう。
「理恵、プロファイリングを学ぶのは私も難しいと思うわよ」
「そりゃあ一朝一夕にはできないけど使いこなせたら、当たるんじゃねぇか?」
「そもそもプロファイリングって、占いみたいなものよ」
「当てずっぽうってことかよ」
「違うわよ、大多数の人をターゲットにしているのよ、雑誌とかで占いがあったとして当たっている人と当たらない人がいるわよね、占いの人は、牡牛座の人は全体的に健康運が悪いですって、でも皆同じように悪いわけではないわ、それと同じようにこういう状態の時は大体こうする傾向が高いと考えるだけで、それを考えるだけなら私も立川さんも、理恵も出来ているから、出来ているものを学ぶと言うのは、難しいでしょ」
「なるほどなぁ、プロファイリングってやつも案外簡単にできるのか」
簡単にできると言うのは、語弊があると思う。
まぁ緑川さんが納得しているのであれば、それはそれでいいだろう。
じゃあお前もういっそのこと、足りないものは腕力だなと言われても困るし、そもそも腕力で事件を解決するのは、無理だろう。
僕にだって考える事は出来るはずだ。
例えプロファイリングと言う高尚なものができずとも、立ち止まったままでも、考える事は出来るはずだ。




