探偵の性のようなもの
例えば明日地球が滅びるといわれて、信じる人はどのくらいいるのだろうか。
それはどのくらい信じるに値するだろうか。
それはどのくらい疑えばいいのだろうか。
心境、状況、境遇、様々に折り重なる事情によって、導く答えは違うことだろう。
一時的に流行したある大予言のように、同じ人間でありながら、全く違う答えを出していたように、その答えは人によって違うだろう。
そして自分の答えと違っていた時、自分が間違っていたのかと改めるのか。
答えが間違っていると思うのかそれもまた自由ではある。
お嬢様と緑川さんが友達になった出来事と、緑川さんが不良のように、少々素行が乱暴になったのは、お嬢様の一言が起因しているという答えに対して、ロボ和歌子初号機が出した答えは緑川さんが嘘をついたと言う事である。
「所長、彼女が言っているだけという可能性が高いですよね?」
「いや、でも事実なんじゃないかなぁ」
ロボ和歌子初号機が嘘をついていると、判断するのもわかる。
なにせ不良の友達が欲しかったの、あなた不良の友達になってくれるわよねと言われて、友達になり、不良になったという、エピソードを正しいと思えるのは、きっと正しい感覚であり、正しい考えであろう。
僕自身、お嬢様に会っていなかったら、その感覚だったのかもしれないが、あのお嬢様ならそういった行動にでないとも言いづらい。
お嬢様に会って起こった体験から、感覚が麻痺しはじめているのだろう。
「所長は正気ですか、あんな嘘のような言葉を簡単に信じて、人生渡っていけませんよ」
「そうは言っても、本人が言っているわけだしさ」
「ここは第三者である門番の茂田さんかメイドの川中さんにでもたずねてみましょう。」
まぁそれで納得するならいいか。
ここは、心身への被害が少ない茂田さんに聞くのが無難な選択だろうか。
「あっ所長ギャルゲーのルート選択のようですが、違いますからね」
「いや知っているから」
むしろそんな気はさらさらしていなかったのに、言われることで、ギャルゲーのルート選択のように感じてしまい、門番の茂田さんを選ぶべきなのに、メイドの川中さんを選ぶほうが正解のような気がしてくる。
しかも先程、人生渡っていけないなどとこのロボ和歌子初号機に言われたのが情けないし、理不尽すぎる。
「どうかしましたか、はやくどちらにフラグをたてに行くのか決めてくださいよ」
「いや、なんていうかギャルゲーとかそういったのがよく出てくるなぁと思って」
「あぁ人との会話にそれ系のゲームから学習しましたから、ロボットを人間に近づけるのは、人間を知ることです」
とんだ開発者もいたものだ、何を思ってギャルゲー系でつくったんだろうか。
こちらの呆れに同調したのか、それとも察知したのかロボ和歌子初号機は、言葉を続けた。
「まぁ人を知るには愛をしると同義、ギャルゲーこそが、人を知るには、いいプログラムですが、もちろん、私としては阿呆としか言いようがありませんが、親とも言うべき存在とプログラムには逆らえない、ロボットとしての悲しい性といえましょう、やる必要もないのに、やる必要性にかられ結局は、プログラムに抗えない、ロボットはそれに従うのが、ロボットとしての正しいあり方ですね、本当はイヤイヤながらこういった余計な一言を言っていると思ってください」
僕としては、嬉々としながら余計な一言を添えているようにしか見えないし、そこまでプログラムに抗えないのであれば、仮とはいえ、所長である僕に対して、探偵助手として気を配るような真似事も出来るのではないだろうかと思う。
「どうしました?」
「うん、なんか疲れがグッと押し寄せてきた」
「所長疲れるほど、探偵として何か仕事しましたか?」
「あぁうんそうだね、僕が間違っていたよ」
「それでどちらのルートで行きます?」
「メイドルートでいいです」
そもそも探偵として仕事を全くしていないような僕に対して、気を配ってほしいと思うことが、間違っていたのかもしれないし、彼女は、探偵助手として仕事をしていない僕に発破をかけることが、探偵助手の役割なのかもしれないし、ただ本当の所は、この導いた答えじゃないのかもしれない。
それを確かめる術はないが、僕より数歩先を歩いている彼女が嘘と判断したものが、正しいのか、正しくないのか確かめることぐらいはできる。
それは、やる必要もない事だとわかっていながらやる必要にかられる。
真実を探さずにはいられないような探偵の悲しい性にも似ているような気がする。
もっとも似ているような気がするだけで、本当は真似ごとにも及ばないのだろうけど。




