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決め台詞と友達

 この僕にも友人と呼べる人間はいたはずだが、いまや携帯のアドレスを埋めていても、連絡自体何もなく、こちらからも連絡することもない。


 それは何故かといわれれば、その程度の付き合いだったのだろう、自然に消滅するぐらいの関係性だったのだろうと思う。

 自分にも嫌なところがあっただろうし、相手の嫌なところもあったはずだが、決定的にこれだという事件はない、きわめて薄くもろい関係だったのだろう。


 そのような関係を友人と呼んでいいものかは、分らないが、日陰もの同士どこかにていたのでただただ寄り添っていただけなのかもしれない。


 友人はどこかしら似ている部分、共通する部分があるのだろう。

 

 そういった点でいえば、お嬢様の友人である緑川さんも共通する部分があるということだろうと考えたら先程の発言も納得のいくものではある。

 

 たとえ言った本人が恥ずかしさの余り、言った直後に悶えながら顔を赤らめ、取り乱し、僕の髪を数十本まとめて引きちぎり、僕の腕をかむぐらいに取り乱したが、お嬢様の友達と考えれば不思議ではない。

なにせ類は友を呼ぶと昔からの真理のようでいて、遠く身近な言葉が付きまとう、それこそ友達のように。


 事の発端は先程、足を川中さんに踏まれ苦しく、密かに悶えているところに、ポロっと緑川さんが言ってしまった一言だった。


「なぁ探偵の決め台詞は無いのか?」


 決め台詞、その言葉をきいたとき、何を言っているのか数秒理解するまで時間がかかったが、お嬢さまは流石にすぐに理解した。

 

 決め台詞、すなわち犯人にとっては、自分の罪が暴かれ幕を閉じる瞬間であり、探偵にとっては事件を暴く最後の幕開けを告げる合図でもあるところの決め台詞。

 もちろん本当の探偵はしないが、ドラマや小説の探偵にとっては、必要なものであり、もちろんお嬢様の求める探偵像にも欠かせないものであろう、先程確かにそこには頭が回らなかったが、たとえ回ったとして、決め台詞をいうという恥ずかしさのあまりに言うことをしなかっただろう。

 

「そうですね探偵には必要ですね、さすが理恵わかっていますね」

「ちょっとまってください、所長が決め台詞をいうとイラつく人が多数出現します」

「そういう些細な問題はおいておきます、理恵の素晴らしい提案を優先します、それに探偵である、立川さんに探偵の決め台詞が似合わないという事はないと思いますよ」


 緑川さんが取り乱しながら、僕に暴挙を働いている。

 そして体以外にも心を痛めつけようと目論んだのかは、定かではないが、ロボ和歌子初号機の至極真っ当な提案で僕が多少なりとも心が傷ついているところに、その上から高品質な薬品を塗りこむ言動がとても心に痛く染み渡った。

 そして、僕の黒歴史にまた新たな一ページが刻まれようとしている。


「さて理恵、立川さんの決め台詞を考えてください」

「えっ」

「貴女が発案者なのですから、決め台詞聞いてみたかったんですよね」

「ちがう、ただ、こうふと、ほんの少し思っただけなんだ」

「照れなくてもいいのですよ」

「照れてねぇから!」

「緑川さん、落ち着いて、痛い」

「テメェの所為だ」


 落ち着きを取り戻そうとしたときに、お嬢様の余計な一言で、さらにお腹を殴られるという悪循環が発生した。

 

「大体、こんなヤツが決め台詞とかちゃんちゃらおかしい」

「その点については同意しますね、まぁその辺は先程却下されましたが」

「えぇ、立川さんは探偵ですから、決め台詞も似合うと思います」


 探偵は決め台詞が似合うものらしい。


「まぁ事件を解決できない者に、決め台詞というのは無用の長物ではありませんかお嬢様」

「あぁその問題もありましたか」

「大丈夫です、決め台詞は探偵として習得すべきスキルですから、逆に考えて決め台詞がなければ立川さんが事件を解決できないともいえるでしょう」


 決め台詞をいうというのは、どうやらお嬢様の中で僕が事件解決の際は、決め台詞をいうものと決定しているようで、川中さんの忠告というかどちらかといえば、いやみと言うものを軽く流した。


「さて、理恵何か思いつきましたか?」

「いや、そもそもコイツに似合う決め台詞が思いつかない、決め台詞が似合わない」

「そんな事はないはずですが、なら先例に倣うようにしてはどうでしょうか、立川さんは先祖に高名な方とかいらっしゃいますか」

「いたって平凡ですね」

「なら、先祖の名前にかけるのは無理ですね」


 先祖を敬う気持ちはあれど、高名というものではないし立派でもない。

 そもそも先祖の名前を背負えるほど、人間ができていない僕にとって、先祖や家名を使っての決め台詞は無理だろう、お嬢様なら背負って、かっこよく決まりそうなものではあるが。


「じゃあ何か格言っぽいものはどうです?」

「座右の銘とかあるのかお前」

「あぁっと特にはないかなぁ」


 面接の時に聞かれて、ふわっとする質問だとおもう、平穏無事という四文字が頭に浮かぶが、探偵として平穏というのは望めないであろうし、そもそも平穏無事が決め台詞として流用できるとは、僕には到底思えない。


「所長、僕は死にませんこの謎を解くまではとかどうですか」

「いや、それ違うような気がするって」

「和歌子は何かある?」

「僕の推理から逃げられた犯人は誰一人いませんとかどうですか?」

「僕探偵として一応初事件なんですが」

「黙っていれば分りませんよ」


 すでに迷走しきりの決め台詞を決めようとしているが、どうにもならない。

 騒がしく、賑やかに時間は過ぎていく。

 こういう時間の過ごし方をしているのがもしかしたら友達かもしれない。


 そして妙な一体感のもと決まった決め台詞。


「犯人にとって泡沫の夢でしたね、僕の推理が正しければの話ですが」


 なんともいえない恥ずかしい決め台詞になった。 

 実験的にいった結果、お嬢様は満足していたが、他の人は笑いをこらえていた。


 

 


 

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