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嫌われ者とメイド

 当然のことというのは、然るべき事を起こせば当たり前に起こるから当然である。

 

 当たり前のことというのはつまり、予定調和であり、なんら不思議や謎などなく、誰にでも理由が察することが容易なものだ。

 僕が探偵になるという、偶然の理由を探すという事よりも、いきなれたコンビニで目当てのものを探すよりも、簡単なことである。


 つまりは今のこの状態も容易に、簡単に説明がつくと言うことである。

 今、広い屋敷で、必死に身体を縮めながら、丸めながら、誠心誠意土下座を行っている僕は当然のことをしているのだ。


 何せ相手を怒らせてしまっているのだ。

 

 探偵助手のロボ和歌子初号機の不用意ではなく、予定されていた質問を聞いた時、メイドの川中よしみさんが、怒るという至極まっとうで、当然の事だろう。


 それを止めれない、無力な僕が、今はまだ、いやこの先も恐らく、名ばかりとは言え探偵という探知助手の責任を問われているという状況だ。


 しかし、僕が怒られているのは、納得いかない部分はあるものの当然である、しかしそれよりもなにより、彼女の怒りのほうが、もっともで当然のことだ。


 何せ、本当に、あの探偵助手は、聞いてしまったのだ。

 忙しなく屋敷の部屋の掃除の仕事をしている、メイドさんに聞いてしまったのだ。

 それも、何も臆することも、隠すこともなく、真正面から堂々と、ど直球で聞いてしまったのである。


「お嬢様を殺したいと思ったことはありませんか?」


 その後の息を吐くように、自然に出た一言のは行の一番最初に、恐怖がいつもそばにいる、無二の友人のように、近くにいた。

 その友人は、僕に逃げることを許さないとばかりに、足を地面に縛り付けた。


「なんで、そのような馬鹿げた事を聞くのでしょう」

「所長が聞けない質問ですから、私が代わりに聞くしかないでしょう、それでどうなんですか?」


 ロボ和歌子初号機は、僕の心身などどうなってもかまわないとばかりに、さらに質問を重ねている。


「あのようなお嬢様ですから、心労の一つ、不満の二つ、三つたまって、それが殺す動機になるという事は予測できる範囲です」

「不満があったとしたら、まずそこの探偵という職業の男を雇ったということでしょう」

「それはつまり、犯行が行いづらくなったということでよろしいのでしょうか?」


 全然よろしくない、それは拡大解釈というより、話がかみあがっているようで全く持ってかみ合っていない、この会話に入るようなことはできない。

 

 むしろ入りたくはない。


 ロボ和歌子初号機の言葉に、怒りを覚えているのだろう、これで呑気に会話できるのはきっと心が強い人か、何も考えていないか、何も感じない人であろう。

 僕は不幸にしてそのどちらでもなく、ロボ和歌子初号機は幸運にして、何も感じないロボである。


「お嬢様を殺したいと思った事などありませんし、お嬢様の死を願うメイドがどこにいますか」

「メイドがお嬢様を殺そうなんて事を疑うのは探偵の仕事です、まぁそれにいうならば探偵を雇うお嬢様の気持ちではないかと推測します」


 アウト、アウト、アウトだよ、アウトすぎる発言をした、ロボ和歌子初号機の隣にいる僕を睨みつける冥土の視線にたえきれなくなり、友達の恐怖心は仲間をよんで、僕の身体をぐいと押し付けるように、僕を床に座らせた。

 必死で頭を下げ、飛んでくる雷のごとき叱責を必死に受け止めた。


「貴方がたが、疑うのが仕事だというなら、私はお嬢様を見守る事、仕えることがお仕事です、それなのに、何故私がお嬢様を殺さないといけないんですか、馬鹿なんですか、起こりもしない殺人事件の調査なんて、早々にやめて、荷物をまとめて帰って欲しいぐらいです、お嬢様が探偵なんて求めなければ、こんな不愉快な思いにはならずにすんだでしょうね、忙しいメイドの仕事の邪魔をしないでください、ただでさえ屋敷のことは私一人で仕事をしているんですからね」


 

 至極まっとうな怒りを吐き出すように、豪雨の中の雷のように、部屋どころか、屋敷中にとどろくような怒声が終わり、幾分すっきりしたのか、それでも仁王立ちをして、こちらを見おろす視線には、まだ不機嫌さと怒りをにじませていた。


「すいませんでした」

「そう思うなら、早く出て行ってください、急がしいんですから」


 その言葉通りに、僕は急いで出ようとしたが、ロボ和歌子初号機は今ままでのメイドの川中さんの怒りなど、自分には関係ないとばかりに質問をした。


「あぁ最後にメイドさん、一つだけ確認させてください、何故こんな広い屋敷にメイドが一人なんですか」

「お嬢様が望んだからです」

「よほど、お嬢様に信頼されて優秀なんですね、川中さんは」

 

 僕のなにげない言葉に少しばかり、川中さんは、あきれた目をこちらに向け、さきほどとは違ったは行の言葉は力が抜けたようだった。


「少しばかり褒めても何も嬉しくありませんし、それにお嬢様の信頼など多少の理由にすぎません、本当にただお嬢様が望んだ、ただそれだけなのですから私がいるのは当然のことなのです」


 それだけ言うと、さっさと部屋から出て行くように無言で促してきたので、頭を下げながらメイドのお仕事の邪魔にならぬよう足早に廊下にでた。


「メイドさんがデレるわけないのに、最後の褒め言葉はなんなんですか」

「デレることなんて、期待する余地も無いよ」


 的外れな発言のロボ和歌子初号機の言葉に、先程までのやりとりで疲弊した、心と体から力がぬけ、その場にへたれこんだ。 

 

 お嬢様が望んだ事はお嬢様の殺人事件の解決、僕はそのためにあのお穣様に雇われた。


 メイドの川中さんはこの事をどう思っているのか、それは聞かなくても考えれば、分かることだったのかもしれない。

 

 ロボ和歌子初号機が指摘したような容疑者候補という、至極当然に不愉快になる事実かもしれないのだから。

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