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ロボと動機

 動機と言うのは、探偵がでてくる物語においては、犯人の許しがたい悪でありながら、犯人にっとては善の行動である場合がある。


 犯人の善、ひいては、被害者の悪が暴かれる瞬間でもある。


 なぜ殺したのか、それを知りえた瞬間、どうしようもない問いが襲う瞬間でもある。


 はたして、どちらが悪いのか。

 

 犯人が悪であるのに、被害者であるという不可思議な感覚が襲ってくることがある。

 復讐を誓った犯人を名探偵たちはどのような心境にて、公の前でその犯行を暴くのだろうか。


 動機をしるという事は、その人の過去を知るということだ。

 名探偵達は犯人の犯した罪を暴き、その推理の刃を持って斬っていく。


 ある名探偵は、犯人に同情をよせ、悲しい事件と嘆きながら、斬っていく。

 ある名探偵は、犯人を見放して、あなたも同罪ですよといいながら斬っていく。


 動機という犯人の手がかりを元に砥いでいった、刃を振りおろす。

 動機と言う犯人の原動力、心情を利用して、過去を利用して、推理していく。


 その輝きをもって、名探偵と言う人物達が登場する物語は魅せるような話になっていくのだろう。


 つまり、僕のようなコミュニケーション不足とロボットに言われてしまうような者が、振り下ろせるのは、ナマクラのようなものだということになってしまうだろう。

 

 しかし、ナマクラのままでいいのではないだろうか、下手に先程のように、お嬢様を殺したいと思った事は、ありますかと聞くよりは大分僕の心情の負担軽減になるのではないだろうか。


 そう思い、お嬢様を殺したことがあるかと聞きまわるのはやめて欲しいと、すごく真っ当でありながら、どこか逃げるような意見を提案したところ、ロボ和歌子初号機は目をチカチカと、ライトアップしながらクビをふった。 

 

「動機がなければ人に非ずというではないですか」 

「そんな言葉聞いたことがないよ」

「今聞きましたよね」


 そんな子供じみた反論はいらないが、何をもって説得すればいいのだろうか、ロボット相手に心情というものを理解してもらうのには、骨が折れそうだが、此処まで受け答えができるのであれば、もしかしたら理解してくれるのではないだろうか。


「僕には胃と心いうものがあって、聞きまわるとそれらが痛む」

「そうなったら、病院にいったほうがいいですね」


 いっけん、適切な対応が返ってきたように思えるが、ロボ和歌子初号機が聞きまわるのをやめるという選択肢をとってほしいので、さらに提案してみることにした。


「胃と心が痛がる前に、聞くのをやめようとは思わないの?」

「所長の心と胃が痛む程度ならやめません」


 僕の心と胃の痛みというものは、どうやら、起こるかわからないお嬢様殺人事件の礎となる運命をたどるということだろう。

 

「動機を知るということは、犯人の可能性を絞り込むことが必要だと判断します」

「いやまぁそうなんだけど」

「犯人に目星をつける、今後起きた場合に捜査の役立つ情報となりますよね、所長は探偵として雇われているならば、行動するというのは当たり前のことですよね」


 何を言っても勝てる気がしない、いや真っ当なことを言っているのは、おそらくロボ和歌子初号機であるのは分かりきっている、探偵として事件を解決しようとしないのは探偵失格というものだろう、それがたとえ、起こっていない殺人事件のための調査だとしても、やることをしないといけないというのは実に当たり前のことである。


「わかったよ」

「分かっていただければ結構です、へたれていないで、次行きますよ」


 僕が納得したことにより、目のライトアップをやめ、次なる人物にお嬢様を殺したいと思った事はないですかと聞きに屋敷を歩き回ることを提案してきた。


 もう今日のところはいいのではないだろうかと提案をしようと思ったが、それより何より気づいてしまった。

 メイドさんやお嬢様の友人にも聞くとなると、胃と心が痛むだけでなく、別箇所も物理的に痛むのではないだろうか、何よりメイドさんの心象というものが更に悪くなる。


 怒られるのが僕だけという事態にだって、なりかねないというよりなってしまうだろう。

 憂鬱のためか、早くも胃と心が痛くなってきた。


「所長、これほど広い屋敷です救急箱程度常備しているでしょうから胃と傷の心配はしなくてもいいです」

「怒れること前提に話を聞こうとするのやめてくれないかな」

「いやですねぇ所長、怒られる以前に嫌われるんですから関係はないでしょう」


 追い討ちをかけて来たロボ和歌子初号機はなんでもないように言ってくれる。


「人の気も知らないで」

「ロボですから知りません、だから動機というものが理解できれば私は人に近づけるかもしれません」 


 動機がなければ人に非ず。

 動機というもは、人が人であるものの重要なものかもしれない。


 人ゆえに動機という手がかりをのこすのだろう。

 

 犯人にとっても、探偵にとっても重要な人としての動機。

 ロボ和歌子初号機がもし動機というものを理解できたとすれば、人に近付くことが確かにできるのかもしれない。

 

 それが叶うかどうかはわからない。


「その時は僕の胃と心をいたわれるようになれる事をねがうよ」

「ごめんなさい、それは無理です」

 

 

 



 


 

 

 


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