化け物は真夜中の白昼夢と共に
白が食料を求めて祠に戻った時、彼女はそこにいた。
食料の匂いに釣られて戻ったものの、生け贄と呼ぶにはそぐわない格好をした、年頃の少女たちが、寝床の隅で震えている。そんな少女たちを庇うように彼女は大きく手を広げていた。
どう見ても生け贄ではないようだったが、この姿を見られた以上は食料にするほかにない。
たった一人だけ此方を睨み付ける彼女も食料の一人に過ぎない。筈だった。
郁乃 悠。そう名を名乗った少女は、束ねていた長い黒髪をほどき、刃物ように鋭い視線を化け物に向ける。
少女の程好く焼けた肌を月が照らした。息は荒々しく、肩は大きく震えていたが、その目だけはしっかりと此方を見据えていた。全身のあちこちに散らばったいくつもの赤い傷痕や痣が酷く痛々しい。
手足のあちこちには最早切り傷とは呼べない程の傷が深く深く刻み混まれている。それでも尚、此方を睨み付けて今にでも飛びかかってきそうな様はまるで母親狼のようだった。