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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君のいた世界

 私はある狭い路地裏にいた。

その時の私には名前も、今までのほとんどの記憶もなかった。

そんな寒い冬の夜、一人の名家の主人に会ったのだ。

「寒いだろう?私の家に来ないかね?」

そんな優しい主人の言葉に私は……

「行かしてもらっても、かまわないのですか?」

それを聞いた主人は豪快に笑い、そして……

「もちろんだとも。けれど、条件があるんだが…どうするかね?」

「行き・・・たいです。」

「はは、そうかね。じゃあ、条件を言おうか。

まず1,私の家でメイドとして働くこと。2,勉学に励むこと。

そして3,私のところの息子と仲良くすること。

・・・でどうかな?」

少し皮肉気に言っていた。

 

私の答えは・・・

「もちろんです。行くことを許してくれるなら、行きます。」

「それじゃあ、私についておいで。ここじゃ寒いだろう?

今の時間なら、朝に私の家に着くよ。」

と、言って馬車へ向かった。

そんなことで私はいつの間にか寝ていたらしい。

朝日が昇っていた……

「君も今日から私たちの家族だ。」

ニカッと笑った主人は名家のクローツ家の5代目だった。


 そして、自己紹介をしてくれた。

「私はこの家の5代目主人、エルバルト・クローツだ。こちらは私の妻で、マリッツェ。

あと、私の付き人で、ドルトム。妻の付き人のクロハ。料理長のフジナミ。

そして、私の息子のラルドだ。

仲良くしてやってくれるかな?」

すっこし不安そうな旦那様の問いに

「もちろんです。」

と、答えた。

「そうか。では早速だが、ラルドの付き人になってくれないか?」

「はい、わかりました。」

そして、

「僕はラルド。よろしく。君の名前は?」

ニカッと笑うような性格は主人に似たのだろう……

そんなことを思いながら

「私には、名前がありません。」

と、答えた。

みんなは驚いたようだった。

まあ、大抵の人はそうなる。

だが、この『ラルド』という少年は違ったようだ。

「じゃあ、僕が君の名前を付けてもい?」

目が、心が、キラキラしていた。

「いいですけど・・・」

悪いが少し引いてしまった。

だって……

(こんなに私にかかわろうとしてくれる人なんて見たことなかったし、

ましてや、名前までくれるだなんて・・・)

少しして、ラルドの口が開いた。

「『ハルカ』なんてどうかな?」

閃いたかのようにそう言った。

「・・・それはどういう意味ですか?」

不思議すぎて訊ねてしまった。

「えっとね、ずっと、僕の隣にいてほしいなぁ、って思って『ハルカ』」

またしてもニカッと笑った。

それにつられて私も頬が緩んだ。


 そんなことをしている中、旦那様が

「じゃあ、君は今日からクローツ家の家族であり、

ラルドの付き人のハルカ。でいいかな?」

と、問いかけてきた。

その問いに私は

「はい。」

まっすぐな目でそう答えた。


 それから詳しいことはラルドが教えてくれた。

旦那様のこと、奥様のこと、ドルトムさんのこと、クロハさんのこと、フジナミさんのこと……

それから自分のことを……

「改めて、僕はラルド。9歳で趣味は外で遊ぶこと。」

「私はハルカ。9歳。得意なことは裁縫。」

そんなことを言い合い、笑った。


 クローツ家の人々は優しくて、たくさんの幸せな日々を私に教えてくれた。

そんな9歳の冬のこと。


 それから数年経ったある日、ラルドと遊んでいた昼過ぎかっけこをしていると、ラルドが突然倒れた。

「ラルドッ!大丈夫ッ?!」

あまりにも突然すぎて私はパニックになっていた。

「だ、いじょうぶ、だよ、ハルカ。」

その声を聴いて冷静になれた。

「私、旦那様を呼んでくる!」

そういってすぐに走り出した。


 「ご主人様っ!」

主人の部屋のドアを勢いよく開けた。

「どうしたんだね?ハルカ。」

「ラルドが、ラルドが倒れちゃって、苦しそうで・・・旦那様、ラルドを・・・助けてっ!!」

そう言い終わった時、旦那様の顔は真剣だった。

「わかった。君はマリッツェに伝えて医者を呼びなさい。私はラルドのところへ行く。」

「はいっ!」

そういって私はマリッツェ、奥様のとこへ急いだ。


 奥様は書斎にいた。

「奥様っ!」

急にドアを開けられたものだから、

さすがの奥様もガタタッと音を立てて椅子から転びそうになっていた。

「どうしたのですか?ハルカ。」

「ラ、ルドが、ラルドが倒れて、それで旦那様を呼びに行って、

旦那様が奥様に、医者を呼ぶようにって・・・」

息を切らし、涙を溜めながらそこまで言った言葉を奥様はさえぎって、

「話は大体分かったわ、ハルカ。

あなたはラルドのとこへ戻ってあの子の傍にいてあげなさい。私は医者を呼んできます。」

そう言って書斎を後にした。

「行かないと。」

私は急いだ。


 それから何時間か経った。

ベットにはラルドが寝ていて、その顔はとても苦しそうだった。

「ラルド・・・」

私はそのすぐ横の椅子に座り、彼の手を握っていた。

 

 ラルドが起きたのはその日の夕方だった。

窓からは西日がさしこんでいたその時、ラルドの手が動いた。

「ラ・・・ルド?」

目が、開いた。

「・・・ハルカ・・・おはよう・・・今、何時?」

言葉にするまでは数分かかったが意識を取り戻していた。

「今は・・・16時半だよ。」

部屋にある掛け時計を確認してから言った。

「あ、もうそんな時間か・・・勉強する時間、過ぎてるね。」

そう言ってニカッと笑った。

「今日は、もういいんだって。

だからしっかり休みなさい。って旦那様が言ってた。」

「父さんが・・・そうなんだ。

じゃあ、今日はしっかり寝る前に明日のやるところを見ておかないとね。」

私たちはおやつを食べてから、1時間程度フジナミさんに勉強を教えてもらっている。

だが、「今日はいろいろありすぎて大変だろうから。」

って旦那様やみんなが言って、私も賛成した。

「そうだね。けど、今日は安静にしておかないといけないからほどほどにね。」

「わかってるよ、ハルカ。」

ニカッと笑ってそう言った。

「じゃあ、ご飯は7時からだからその時になったら持ってくるね。」

「ねぇ、ハルカ、一緒にご飯。食べれないの?」

「ふぇ?」

服の裾を急につかまれて聞かれたから変な声が出てしまった。

「はは、顔真っ赤。」

ラルドにも言われたが、自分でもわかるほどに赤かった。

「もぅ。からかわないで。

でも、一緒にご飯食べれるかは聞いてくるね。」

「うん。一緒に食べれるといいね。」

笑っているラルドに私は頷いて部屋を出た。


 みんながいるリビングのドアの前に来たとき私は聞いてしまった。

「先生、ラルドはどういう状態なんですか?」

「生まれて間もないとき、ラルド君は一度病気にかかっていますよね?」

「はい。その時も先生に診てもらいました。」

「ええ。それで、その時の病気が再発して、今はもう・・・手遅れです。」

「「「え、」」」

「ラルド君はそんなに長くはありません。もって・・・一年といったところです。」

「まって、ラルドはまだ12歳よ。そんなこと・・・」


   ――ガチャ


「そ・・・んな・・・」

みんな突然私が入ってきたことに驚いていた。

「嘘、そんなの嘘よ。ラルドがいなくなるなんて、死んじゃうなんて・・・嘘よ、嘘よ、嘘・・・」

そんな自分を奥様は抱き寄せ、

「落ち着いて、ハルカ。まだラルドが死ぬなんて決まっていないわ。

それに、どこから聞いていたの?」

「『先生、ラルドはどういう状態なんですか?』のとこからです。」

「最初からね。」

そう言って、奥様やみんなは私を責めてこなかった。

逆に、

「このこと、あの子に言わないで、ハルカ。」

「なんで?なんでですか、言っているほうがいいんじゃないんですか?」

私の思考回路は混乱していた。

「あのね、ハルカ、世の中には知らない方がいいときもあるの。

今はそのとき。

あの子の残っている人生を私たちは縛りたくないの。自由を奪ってあげたくないの。

それに、あの子が知ってしまったら、たぶん、自殺してしまうわ。」

奥様がそう言っている間に私も落ち着いていて、言っていることの意味も分かった。

「だからハルカ、あの子がいなくなるその時まで、一緒にいてあげて。」

「わかりました。」

(けど、そんなこととっくの昔に決めていた。あの時、ラルドが私に名前をくれたときに・・・)

そして、今思い出した。

「あ、今日の晩御飯。ラルドと一緒に食べていいですか?ラルドの部屋で。」

「ああ、もちろん。」

「じゃあ、私と一緒に行こうか。ハルカちゃん。」

旦那様から承諾を得て、クロハさんが手伝ってくれることになった。

「ありがとうございます。」

私は少しでも長くラルドといれることに感謝した。

その日の晩御飯はラルドと今はまっている本についての話で盛り上がっていた。

そんな12歳の春だった。


 ある日の夜、私はラルドの部屋にいた。

あれからは3年経っていた。

余命一年と医者に言われたことはラルドには伝わっていないし、生きている。

たぶんそれは、誰もラルドに言わなかったからだ。

「ねえ、ハルカ。もし僕が死んでしまったら、君はどうする?」

「え、」

考え事をしている中、突然の質問に驚いたが、

ハルカの答えは一つしかなかった。

「悲しすぎて、あなたの後を追うわ。」

(だって、私の世界はあなたを中心に回っているから・・・)

そんなことも考えながら言った。

「そっか、僕はハルカに愛されているんだね。」

ラルドは照れくさそうに笑っていた。

(ああ、そうか、この感情は恋だったのね・・・)

「そうだよ。私、あなたのことを愛しているの。」

「そっか・・・ありがとう。

でも、今日はもう遅いから、また明日話そうか。」

ニカッと笑ってそう言った。

その通りだった。

時計の針も11時を指しており、外も暗かった。

「そうね。それじゃあ、また明日。おやすみ、ラルド。」

「おやすみ、ハルカ。」

そう言って部屋のドアを閉めた。


 翌日。いつもより早く目を覚ました。

外の空は少し暗かった。けど、私はラルドの部屋へと向かった。

部屋のドアをゆっくりと開け、中へ入った。そして、寝ているラルドの横に座った。

けれど、何かがいつもと違った。

気になって周りを見渡すと、ベットの隣にある照明棚にある便箋が目に入った。

それを手に取り、読んだ。

『ハルカへ

 おはよう。今日の君はいつもより早く起きてしまっただろうね。

 

 僕ね、隠していたけど、病気のこと本当は知っていたんだ。

 みんな心配していたしね。

 けど、今までの人生はとても楽しかったよ。

 君が来てからは特にね。

 

 君の昨日の言葉とても嬉しかった。ありがとう。

 けど、どれだけ悲しくても死なないでね。

 これは僕の最後のお願い。

 

 あと、言っておくことが一つ。改めていうのは恥ずかしいね。

 君のことが好きだよ。家族としてじゃなくて、異性として、愛してる。 一生ね。

 最後まで一緒にいてあげられなくてごめんね。

 愛してる。さようなら。

          

               ラルドより  』


読み終わるときには涙が流れていた。

「ラルド・・・私も、愛してる、愛してるよ・・・けど、ごめん。約束破っちゃう。」

といって自分の部屋へ行きナイフを持って戻った。

そして、寝ているラルドの頬を撫で、

「私、ラルドがいないと、何もわからないよ・・・

どう生きたらいいのか、何を楽しんだらいいのか・・・

だから・・・今からそっちに行くね。」

と言って自分の胸を刺し、ラルドの方へと倒れた。


 そのあと、ラルドの様子を見に来たドルトムさんが、私たちを見つけた。

その二日後、二人の葬式が挙げられていた。


『ラルド―』

『え、ハルカッ?!なんでここにいるのさ?!』

『ごめん。約束破ってきちゃった。』

『いや、いいさ。僕は君といれて嬉しいよ。』

『ありがとう、ラルド。』

『あ、ハルカ・・・手、つなごっか。』

『うん。』

そんな幸せそうな声が、空のどこからか聞こえた。

あんまりシリアスかどうかはわかりません。

ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。


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