太陽殺しの死神
その頃、誕生都市ローレライへと通じる1本道。そこに1人の人物が立っていた。
身の丈2mはあろうかと言う大男。顔は人の顔では無く岩で出来たごつそうな顔、手は鉄で出来た頑丈そうな拳、そして背中からは蝙蝠の羽のような物が付いている。彼の名前は【太陽殺しの死神】、エンシェント。火炎で戦う事を主にしている死神である。
「ハハハ! ここで待ってれば、妖術タヌキツネと武闘派姫様がやってくるから待っていろ、か。まぁ、何だって良い。俺がやるのはその2人を倒して殺すことだしな」
そう言いながら、彼はごくごくと酒を飲む。別に酔う為に飲んでいる訳ではないので、酒としては別にそこまで酔うようなアルコール分ではない。ただこれは基本的に気分的な物として飲んでいるだけである。
「これは待った方が良さそうだなと言うか、今日も来そうにないな。あの2人んは」
そう言いながら酒をごくごくと浴びるように飲むエンシェント。
「……ここですね」
「そうだね! そうみたいです!」
と、そんな彼の前に2人の人物が現れた。9本の尾を持つ女性、姫と2本の刀を持った姫様、ユリエル姫の2人。お目当てとしていた人物が現れて、エンシェントは驚く。
「ハハハ! 今日、来やがったか! ならば、直々に相手してやろうじゃないか!」
エンシェントはそう言って、2人の前に立ち塞がる。
「「あなたは……」」
「初めましてだな、姫とユリエル姫。俺は【太陽殺しの死神】、エンシェントだ! お前らをこれから先に進ませないようにするために舞い降りた! 朝比奈揺、それから紅葉と会いたければ俺を倒せ!」
「……ッ!」
その言葉を聞いた姫と紅葉は、それぞれ戦闘の準備を始める。姫は札を構えて、紅葉は2本の剣を構えていた。それを見てエンシェントは満足そうな顔をする。
(やはり戦闘とは、こうでなくてはな)
エンシェントはそう言って、口から炎を吐いてその吐いた炎を拳に纏わせる。これこそがエンシェントが【太陽の死神】と呼ばれる所以。身体の中に太陽石と言う太陽の温度を誇る鉱石を体内に取り入れており、その鉱石の熱を酒で燃やしているのだ。
「喰らってみるか! 俺様の燃え盛る拳! 太陽の、拳!」
エンシェントはそう言って、その炎の拳を姫目がけて振りかざす。その拳を軽く札で受け止める姫。
「火炎程度ならば、喰らいません。と言う訳で、その攻撃は無意味です」
そして札から妖術で火炎を放つ姫。それを慌てて受け止めるエンシェント。
(真面にやった炎は効かないか……。しかし、太陽の特徴はこんな物じゃない!)
そう言って、エンシェントは魔力を太陽石に込めて太陽石の性質を、【灼熱】から【祝福】に変える。
「喰らえ! 太陽の、恵み!」
口から吐き出したのは、先程とは明らかに違う大地を祝福する太陽光だった。その暖かな太陽光の光は、太陽光として植物を育てる暖かな光だった。暖かな光は植物を育て、彼女達の足元からは植物が育っていた。その植物は彼女達の足を拘束して動けないようにする。
「太陽の恵みによって生まれ出でたその植物の名前は、拘束草。相手の自由を奪って攻撃出来なくするその植物で、お前達は動けなくなった。その間に攻撃する!」
エンシェントはそう言って、太陽石に魔力を込めて性質を変える。【祝福】から【放射能】へと。太陽石の中でも特に強力な殺戮性能を持つ【放射能】。
そもそも【太陽殺しの死神】の名は、この太陽石の【放射能】と言う性質を使っての大量殺戮が理由なのだから。
「喰らえ、俺の攻撃! 太陽の、放射線!」
そう言って、エンシェントは口から放射能を吐き出す。放射能は人体に悪影響を及ぼす物でその量によっては死に至る大病すら引き起こす。これだけの放射能を浴びれば確実にあの2人は異常に増殖した細胞である癌が出来るだろう。
「人間の死亡率の上位を占める癌! この攻撃で、貴様らは死ね! 病気で死んじまえ! ハハハハハハハハ!」
高笑いをするエンシェント。そんなエンシェントの身体を、
「……邪魔」
「するなです!」
姫が火炎で燃やし、そしてユリエル姫が飛ばした刀で斬る。倒れるエンシェント。
(ば、バカな……。こんなに、あっさりと……だと……)
ガクリ、と倒れるエンシェント。
実はエンシェントが負けたのは当然だった。何せ、エンシェントはその放射能での死亡数が多かったため、【太陽殺しの死神】と言う称号を持っていただけの、ただの弱者だったからだ。
小物を軽々と倒した姫とユリエル姫は、朝比奈揺と紅葉のいる誕生都市ローレライへと急ぐのであった。