朝比奈と妹
朝比奈がまだ地球在住だった頃。そう、まだ夜比奈ユラギーンによって朝比奈揺の人生が左右されていた頃の話をしよう。
朝比奈家にはいつまでも新婚気分を忘れない両親と多くの子供達が居た。それは兄弟姉妹が多かったと言う事である。兄弟姉妹と朝比奈揺はほどほどに家族として仲良く接していた。まぁ、小説にあるような恋愛事にはならなかった。ただただあくまでも特に仲の良い家族として接していた。その中に揺と特に仲が良かったのが1人居た。
彼女の名前は、朝比奈二世。朝比奈と1歳違いの妹であった。
朝は彼女の顔と共に目覚め、夜は彼女にお休みなさいと言われて眠りにつく。休日は出来る範囲で彼と共にあろうとした。彼にべったりと言う意味では彼女は常軌を逸するほどなまでに、圧倒的なまでに仲が良かった。
「おはよう、兄さん。今日も朝日が綺麗だね」
「兄さん、そろそろお昼の時間ですよ? 手を洗ってきてよ」
「兄さん、勉強が分からないんだ。ちょっと教えてくれるかい?」
「兄さん」「兄さん」「兄さん」
彼女は朝比奈揺にべったりだったし、朝比奈揺も彼女と仲良く接していた。
そんな彼女は家族の中でも秘密を悟らせないと言う意味で異質であった。彼女はどこか掴みどころがなく、どこか空気のような奴だった。地を足に付けていないような、そんな少女だった。朝比奈揺も最終的に今のような異世界に移動してもなお、彼女がどう言う人間だったのかを朝比奈揺は語る事が出来ない。
しかし、そんな彼女にも少しだけ彼に自分の姿に関して語った事がある。その時の朝比奈揺はそう言った事だとは思っておらず、ただの彼女なりの冗談だと思っていたのだが。
それは彼がニートであって、彼が異世界に転生する一年前の事だ。
「私はね、兄さん。前世の記憶があるの。前世ではね、兄さんとは家族ではなくて親友だったの。モリさんと言うあだ名の、運命を司る者と一緒に兄さんと親友だったの。で、兄さんと私とモリさんはいつも仲良く遊んでいたの」
「運命を司る? 占い師か何かなのか、その人は?」
「うーん。人じゃなかったんだけどね。兄さん以外は。モリさんはそうだね、占い師。占い師の中でも一番偉い立場に立つ人物だったんですよ。私はね、死神だった。【死神殺しの死神】、って言われてた。で、兄さんはそんな凄い人達と一緒に居た人間の代表さん」
「そりゃあ、凄いな。僕は昔、そんな人達と仲良く出来るほど凄い人だったんですか。驚きを隠せないよ」
当時の朝比奈はニートになって、人生に悲観気味だった頃で彼女のその言葉をただの妄想としか思えなかった。
「うん、兄さんは凄かったんだ。私達の誇るべき親友だった。そして兄さんは、私達よりずっと短命だった。兄さんが死んで、私達2人は悲しんだ。
モリさんは仕事に打ち込んで、私は兄さんの後を追って輪廻の輪に乗って、友達ではなくて妹になったんだよ」
「ほぅ、それは凄いな」
「――――信じなくても良いよ。そう思うだろうと思ったから、今まで話さなかったんだから。
けれどもこれだけは覚えておいてね。私はいつだって、兄さんの味方だよ」
――――――――それを朝比奈揺が聞いたのは、彼女が死ぬ4日前の出来事だった。