死神殺しの死神(2)
宙に浮かぶ女性、ポイズンリップ。その格好はかなりエロチックである。
胸元と頭の上には黒いリボンを付けている黒色のベビードール姿。左の手首には白いフリルの付いたシュシュ、そして胸元には十字架を象ったペンダントを付けている。ピンク色の腰まで伸びる髪に薄紫色の瞳、身長は低いがスタイルは良い体型をしている。
「久しぶり、こうして顔を合わせるのは約219年ぶり?」
【いや、221年ぶりじゃ】
「時間が経つのは早いですね。前にあった時はジャックがまだ子犬だった頃……」
【いや、私は最初から猫じゃったよ!】
と、ジャックはツッコミを入れておく。はぁー、と溜め息を吐くジャック。
【相変わらずの適当さじゃな、ポイズンリップ。アンジェリー、こいつがさっきまで話していたポイズンリップじゃ】
「ポイズンリップさん……。確かに残念美死神、ですね」
アンジェリーとジャックの死神2体は揃って溜め息をする。ジャックは鼠の死体を手に持ってそれをポイズンリップの方に飛ばす。それを受け取るポイズンリップ。受け取ったポイズンリップは何か納得した顔でアンジェリーを見た後、ジャックの方を見る。
「……あぁ、そう言う事。かぼちゃ君、分かったよ」
【それはあの鼠シリーズのハロウィンタウンの主役の方のジャックだ。黒猫のジャック、【爪研殺しの死神】じゃ。
分かっておるな、【○○殺しの死神】と言うのは高位の死神の証明であり、同時に強さの証明でもある。そして私はこのアンジェリーと共にお前を――――――】
「そう先輩と共に殺しに来たんですよ! とにかく話は終わったんですよね! ならば、すぐに倒します! 喰らえ、アンジェリーの大鎌殺法!」
アンジェリーは我慢出来ないと言う感じで、背中の大きな鎌を取り外してポイズンリップめがけて振りかざす。
【おい、アン! そいつはお前の……】
「分かってますよ、ジャック先輩! こいつを殺すのが任務なんでしょ、うよ!」
アンジェリーはジャックにそう返しながら、大きな鎌でポイズンリップの首目がけて大きく振り回す。
「なるほど。最近では珍しいくらい、鎌主体の殺人攻撃。死神としてその行為は正しい。これじゃあ、普通の人なら殺せる。でも――――――」
ポイズンリップはそう言って、眼を静かに閉じる。すると彼女の周りに半透明な物体が浮かび上がる。半透明で、どこか恐ろしい謎の物体はアンジェリーの鎌の攻撃を防いでいた。
「なっ……!」
「死神は殺せませんね」
そう言って、ポイズンリップはその謎の物体を操作してアンジェリーにぶつける。アンジェリーは小さく悲鳴をあげて、屋根の上に落ちる。
「イテテテ……」
【アン! あれほどちゃんと口を酸っぱくするくらい、相手の力量を見極めるように言ったじゃろ? だからお前はいつまでたっても……】
「ハハハ……。ジャック先輩、すいません」
アンジェリーは死神として先輩である黒猫の怒り立てるような声に、笑うしかなかった。
「ジャック。もう良い? 私も忙しいの」
【あぁ、すまんな、ポイズンリップ。じゃあ、また明日の】
「うん、また明日」
そう言って、ポイズンリップは闇夜の中に消えて行った。驚くほどあっさりとポイズンリップを返した事に、呆れるアンジェリー。
「先輩……。いくら私がやられたからって、逃がすの早すぎですよ。もっと先輩が『黒猫殺法!』とかでカッコよくやっている姿が見たかったし、私もすぐにでもあいつを殺せましたよ!」
ぷんぷん、と怒るように言うアンジェリー。
【お前がやっとるのは殺害じゃ。私はお前に言ったはずじゃよ? 倒すべき死神、それが【死神殺しの死神】、ポイズンリップであると】
「あっ……! 殺害じゃなかったんだ~。ごめんなさい、テヘペロ♪」
【ちゃんと謝って欲しいのじゃが……。まぁ、そこは良い。今日はゆっくり休んで明日の夜会えば良い】
と嘆息しながら言うジャックにアンジェリーが「えぇ~!」と口を出す。
「そんなゆっくりしてたら、あの死神に逃げられちゃいますよ~。さっきも先輩、明日の夜に、とか言ってポイズンさんもちゃんと返事を返してましたけど、それも本当かどうか分からないし~」
【それはないじゃろ……。あいつはこの街から離れはしないのじゃから】
「何故、そんな事が言い切れるんですか!? ま・さ・か、先輩とポイズンさんは相思相愛だったり?」
【猫と女性が恋をしたら変じゃろ。私も死神とは言え、黒猫。恋愛対象は猫に限る】
「えぇ~? ここはこの愛しの後輩にやってくれても良いんじゃないんですか?」
【えぇい、黙れ。兎にも角にもあいつがここを離れるはずが無い。何故ならば……】
「何故ならば……」
ジャックが神妙そうに言葉を濁したので、ごくりとアンジェリーも喉を鳴らしながらジャックの次の言葉を待つ。
そしてジャックはこう言った。
【―――――何故なら、あやつはブラコンじゃからの。兄である朝比奈揺と会うじゃろうて】