生前屋
クエストなんかで無駄に張り切っている奴が居るんだが。そいつは例えば、ドラゴン退治や大型モンスターの巣なんかの依頼において、依頼内容にはなかった物を持ち帰ったりする。
例えばゴブリン10体を討伐してその10体分の討伐部位を持って来いと言う依頼において、20体分の討伐部位を持って来たり。例えばドラゴンを倒して来いと言う依頼において、そのドラゴンの卵を持って帰ったり。例えば精霊を捕獲して来いと言う依頼において、無駄に多い数を捕獲して来たり。
そう言った余剰分はどうすれば良いのだろうか?
この世には魔物使いと言う、魔物を操って戦う職業が存在する。そう言った魔物使い達は最初から魔物を捕まえる事に長けている訳ではないし、使いたい魔物だっているだろう。そう言った初心者の魔物使い達に魔物を渡したり、中級や上級の魔物使い達にそれを取って来た人が欲しい魔物を金で買うと言うシステムがあっても良いだろう。
需要がある限り、供給だって存在するのだから。
魔物を渡したり、魔物を使ったりする。要る魔物をお金を払って貰う。
「しかし、最初から―――――――――厳密に言えば魔物を卵から育てていくんだとしたら、そう言った魔物達を操るのも容易くなってくるのだろう? そう言った、無駄に手に入れて来た魔物の卵を特殊な手段で孵化を遅らせて、育ててくれる人間に魔物の卵を渡すお店。それがこの生前屋でい」
と、店の主人が分かりやすく説明してくれた。つーか、凄い粋、と言うか関西の人を思い浮かぶ。別に関西の人間全てがこうだとは思ってないけれども。なんて言うか、法被のような服を着て頭に捻じり鉢巻きを付けた、40歳くらいのおっさんと言う店主の姿が、どうしてもその辺りの人を思い浮かべてしまうのである。
要するに、地球で言う所の赤子限定のペット屋さんなのだろう。確かにそう言ったのって、赤ちゃんから育てた方が愛着湧くって言うしな……。
「どんな魔物の卵がありますか?」
「おぉ、お嬢ちゃん。良い質問だね。
基本的には冒険者さんや騎士さん達から、手に入れたり捕獲した魔物を貰って卵化魔法と、孵化を遅らせる術式をかけているからな。卵が無いとされているゴブリンやゾンビなんかの卵もあるにはあるぞ。他にもドラゴンとかの龍系の魔物や、ルフールなんかの鳥系の魔物も揃ってるぞ」
へぇ……意外と種類あるんだ。なんか、新鮮である。
店内には色とりどりな卵が並べられている。
龍のような模様が付いたあの大きな卵が龍だとして、あの水色のねっとりした模様が描かれているのがスライムだろう。そしてあの墓の模様が描かれているのがゾンビ、翼の模様が描かれているのが鳥系で、そしてあの赤く塗られたのは何だろうか? 何にせよ、色々な色とりどり、大きさも様々な卵が店内には並んでいた。
なにせ、僕は魔物を選べずに残った魔物を貰っただけだから、魔物を選ぶと言う事もやってみたかった。だからこう言う、魔物を選べると言う経験は貴重である。
「あっ、そうだ。お客さん、ギャンブルが好きならいっちょやってみないか?」
「「ギャンブル?」」
「そう。うちとしてもギャンブル、お客さんからしてもギャンブル。
名付けて、卵一律ゲームだ」
面白そうだし、僕達はそのゲームを受ける事にした。
僕達が連れて来られたのは、奥の部屋。光が差し込まないような真っ暗な部屋で、そこには沢山の卵が無造作に置かれている。そしてそんな卵たちは全て、"真っ黒に塗られていた"。
「この卵達は高級な物だと人化も出来ちゃう上級魔物、低級な物だとすぐにやられちゃうスライム系の魔物。色々な卵がこの中に入っている。この中からお客さんの好きな卵を選んで、その卵を1個1000Gであげちゃおうと言うものだ。スライムだとしたら相場で1匹辺り約50Gくらいだから俺達からしたら黒字、逆にもしもドラゴンなんかの高級な物を当てられちゃうと相場で1匹辺り約4000Gくらいだから俺達からしたら赤字だ。
勿論、色々とルール、つまり取り決めはある。
1つ、魔法の禁止。一回この店で魔法を使って中の魔物がなんなのかを透視してぼろ儲けを考えた奴が居てな。それ以来、禁止にしている。隠れて使おうとしても魔法を使った時点で、警報が鳴ってお客さんの札を取り上げて、この街でこれ以上買い物が出来ないようにさせて貰う。
2つ、卵に触るのの禁止。中に居る魔物はそりゃあ低温魔物や高温魔物やらが居て、さらには心臓の鼓動音とかでどれくらい強い魔物なのかと言うのが、分かる人には分かってしまうみていでな。見るだけだと温度も鼓動音も聞こえないからOK、ただし触れた瞬間、さっき言ったように札を取り上げさせてもらう。
3つ、買ったらここで孵化させないでくれ。言っとくが俺も商売人だ。ここで孵化させられたのがもしも高級な奴だとしたら、俺はそいつを捕まえてしまうかも知れない。だから、孵化させるとしたら宿屋とか、少なくともこの店の中でない場所で孵化させてくれ。
4つ、まぁ、これは言わなくても分かると思うが、この真っ黒な卵の中から選んでくれよ。さっき店内に置いて見せた卵だと、色でだいたいわかっちまうからな。
さぁ、説明は以上だ。どうだ、やるか?」
なるほど。つまりは触らず、魔法も使わずにただの直感で卵を選ぶと言うギャンブルゲーム、か。
そうだとすれば、まず色では判別出来ない。全部黒に塗られていて、先程のように描かれている模様から推測が出来ないからだ。それに大きさもあまり大した問題ではないのだろう。卵が大きいからと言って中に入っている魔物が強いとも限らないし、それに小さいからと言って中に入っている魔物が弱いとも限らない。
ギャンブルゲーム。運の勝負。
「……面白そうだ。やってみようか」
「い、良いんですか? 先程の店内の物でも良いのでは?」
紅葉がそう言うが、僕は遠慮する。
「良いじゃないか。こう言うのも経験だ。
前の世界で僕はこう言ったギャンブル系は避けて来たんだ。けれども責めて1回くらいはしてみたかった。だからやってみたいんだ」
大学時代、友達や同級生がパチンコや麻雀をやるのを見て僕もせめて1度くらいはやってみたいと常々思っていた。なんて言うかそう、皆が楽しんでいるから興味がわいたのだ。前の世界では家計が苦しかったから遠慮していたけれども、異世界であるこの世界ならば1回くらいは僕も楽しんだって神様のばちは当たらないだろう。
「よし、僕はやってみるよ」
「はぁ……。朝比奈さんの命令とあらば使い魔である私は従うしかありません。魔法が使えないので応援くらいしか出来ませんが、せめて良いのが当たるのを祈ってます」
「あぁ。任せてくれ」
僕はそう言って、店主に挑戦費である1000Gを払って、卵の選別に入った。