神に歴史あり(3)
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私、天見ミランダは麻痺する身体を懸命に動かしてアバユリ兄さんの元へと向かった。彼女、いや彼かも知れないけれども【身内殺しの死神】であるシューバッハは私の義兄であるアバユリ兄さんを殺しに行こうとしている。アバユリ兄さんが義兄である事を知ったのは数年前の事であり、その当時はそんな事を黙っていた家族に憤慨を隠しきれない私だったけれども、今はそんな事はない。どんな事情があるにしても、同じ家族だと思っている。だからこそ身内であるアバユリ兄さんを殺されるのは考えたくもない。よって私は急いでアバユリ兄さんを探して学校を探し回る。
グラウンドでは、【機械殺しの死神】であるリュクールを倒そうとツルギ学園の戦女神達が戦っており、校内に居た生徒や教職員は避難場所に逃げているようで校内に人気は無かった。もしかしたらアバユリ兄さんはこの校内ではなく、避難場所に居るのかもしれない。けれども私は、なんとなくだけれども兄さんが校内に居る気がした。勿論、校内を探している理由はそれだけじゃない。シューバッハのあの特徴のせいでもあった。
【身内殺しの死神】、シューバッハ。あの死神は他人に化ける力を持ち、あぁ言った他人に化けるタイプは大勢の人に居る時に効果を発揮する。故にこう言った人気のない場所の方が良いと言う判断から、私は校内を探していた。
どこだろう。私はそう思いながら校内を探していた。もしかして居ないかも知れない、けれども私は探すしかなかった。
「兄さん……。どこに居るんですか?」
私はそう思いながら、階段を上って行く。そしてその踊り場に彼は居た。
ボクの兄さん、天見アバユリはそこできょろきょろと辺りを探していた。どうもボクと同じようにボクの事を探していたらしい。
「アバユリ兄さん……。良かった、まだ無事で……」
しかし、アバユリ兄さんはボクの姿を見て一瞬安堵したものの、すぐに驚いた表情に変わる。そしてボクの手を指差した。
「おい、ミランダ。その"武器"はどうした?」
「えっ……?」
兄さんに言われてボクは慌てて気付いた。焼き殺すために作られた武器である火炎放射器をボクは自身の腕に持っていた。
「こ、これは……。に、兄さん。ボ、ボクは知らない。知らないんです。どうして持っているのかなんて……」
「―――――――ボク? 嘘を吐くな。私の妹は、自分の事を『私』とは言うが、決して『ボク』なんかじゃない」
「あ、あれ……?」
な、なんで? いつの間にボクの一人称が……あぁ、またボクになってる。ボ、ボクだなんて……これじゃあまるで……
「兄さん! 良かった、無事だったんですね!」
と、兄さんの後ろから天見ミランダが現れる。いや、あれは……ボクに化けた【身内殺しの死神】、シューバッハ!
「兄さん! そ、そいつが……! 【身内殺しの死神】、シューバッハです! シューバッハは他人に化ける能力を持っていて、その能力を使ってボクに化けてるんです!」
ボクがそう言うと、兄さんの後ろから現れた天見ミランダの姿を借りたシューバッハがこう答えた。
「い、言いがかりはよしてください! 私こそ、天見アバユリの妹である天見ミランダです。そんな一人称も変で、そして武器を持って現れたそっちこそ、偽物に決まってます!」
天見ミランダ姿の、シューバッハはボクの持っている火炎放射器を指差す。ボクは慌てて火炎放射器から手を離して火炎放射器を地面に放り投げる。
「ボ、ボクこそ本物の、天見ミランダですよ!」
「ち、違います! 私こそ、本物の天見ミランダです!」
兄さんは戸惑っている。そりゃあそうです。2人も天見ミランダが居るのだから。けれどもどう考えても天見アバユリが天見ミランダと思うのは、あっちの方だ。
片方は一人称はいつも『私』で、どこからどう見ても妹に見える天見ミランダ。もう片方は一人称はいつもと違って『ボク』で、人を傷つけるために用意した火炎放射器を持って現れた天見ミランダ。もしもボクだったら、確実にこちらを偽物だと思うだろう。同じ条件を提示されたら、ボクだってこっちの偽物らしい方を攻撃するだろう。
けれども、気付いて兄さん! 偽物はそっちなんだよ!
「……そうか。他人に化けられる敵、か。そりゃあ厄介だ。けれども私はやるべき事をやるだけさ」
そう言って、兄さんは腰に付けた銃を取り出して、自分で偽物だと判断した、ボクの方に銃口を向けるのでした。そしてアバユリ兄さんは銃口に狙いを定めて、
―――――火炎放射器に銃弾を発射した。
「えっ……?」
そしてアバユリ兄さんはボクの前に来て、ボクを庇うかのように前に出る。
「大丈夫か、ミランダ?」
「えっ……? えっ?」
そして撃たれた火炎放射器はカクカクと動きながら、1体の人間になっていく。それこそあの死神、シューバッハになっている。
「痛いな……。ボクは痛さで可笑しくなりそうなのでして」
ど、どう言う事? どうして火炎放射器がシューバッハに……。
「ミランダ、状況が理解出来ていないようだから説明して置く。あのシューバッハは他人になる能力だけでなく、他人の記憶を操作する催眠術も心得ている。それでお前の記憶を弄って、一人称と自らが化けた火炎放射器を記憶操作したんだ」
ほら、よくよく考えてみろ、と言う言葉でボクは記憶を巡らす。
えっと、そのー。ボク、ボク……わ、私? そう、私! 私だ!
「お、思い出した! で、でもなんで……」
「それが彼の能力だったんだろう。ともかく、良かった。ちなみにあの後ろのは別の女性だから。その娘も操れてただけだろう」
よ、よかった。あの娘も操られただけなんだ。後は彼を……
「……許さないのでして」
そう言って、シューバッハは私のほうに火炎放射器を向けて引き金を引いた。
放たれる火炎。
狙われる私の顔。
私は覚悟して目を閉じるが、
――――――――――その炎を受けたのは、兄である天見アバユリの方だった。