神に歴史あり(2)
神の中でも唯一、例外的に神々とは相いれない神がいる。それが死神である。
神は形ややり方はどうであれ、人間を成長させ導く事を基本としている。試練の神であれ試練を与える事によって、人の成長を促すと言う意味では試練の神も、神としての基本は出来ている。
しかし、死神は違う。死神の存在理由は殺す事。
勿論、人間を成長させて導くために世界にとって要らない存在を排除しようとする死神も居るには居るが、それは少数派であり、多くの死神は自身の欲望の赴くまま殺害を繰り返して、魂を刈り取る。故に死神は代々飼育の神が危険指定モンスターとして管理、そしてその殺害欲求を緩和してきた。
そんな死神2人を飼育当番に選ばれた日向ラファエルが解き放った事は、学園中に響き渡る大事件を予感させた。死神は死を司る者であり、その殺害する対象には人間だけではなく動植物、さらに時には神さえも殺す。
逃げた2人はどう言った特徴を持つ神なのか早速飼育の神が調べていて、学生全員に警戒態勢が敷かれた。
【機械殺しの死神】、リュクール。
【身内殺しの死神】、シューバッハ。
それが逃げ出した死神の名前である事が学園中に知れた時、私は怖くなった。死神は神をも殺す、人間界で言う所の殺人鬼か通り魔に当たる危険な人物である。
自分が死ぬかもしれないと言う恐怖に私は身体中を震わせて怯えていた。
そしてカガミ学園のグラウンドに1体の鋼の巨人が現れた。
黒い鋼でコーティングされた巨大な人型のその機械は、右腕に鎌を、そして左腕にはチェンソーが取り付けられており、その頭にはコックピットが設けられており、そこに1人の男性が上機嫌で座っていた。
藍色と紫色が混ざり合ったような髪を脇よりも長く伸ばしていて、カメレオンのようなきょろきょろした瞳。黒のジャージのような漆黒の綺麗な服を着ている。そして頭にはキャプテンハットを被っている。
「ハハハハ! 世界にはこんなにも殺害対象達が居るだなんて! 楽しくて楽しくてしょうがないよ! さぁさぁ、この私、【機械殺しの死神】、リュクールが皆さんを殺害して差し上げましょうー!」
彼、【機械殺しの死神】であるリュクールはそう言って、そのロボットを操作してグラウンドを破壊していく。この異常事態故に学校側はツルギ学園の戦女神達を導入して対処していた。どうも戦女神達は全員、あのロボット退治をしているみたいです。そして私達は学園の教職員達や生徒会役員に促されて避難場所へと向かっていた。
「さぁ、天見ミランダさん。私達も急ぎましょう」
「は、はい……」
と、私はツルギ学園にて大剣の戦女神になるべくして勉学に勤しんでいる戦恋ルルリエルさんの指示によって、避難場所へと誘導されていた。
戦恋ルルリエルさん。ツルギ学園にて戦女神になるべく日々精進を繰り返している女性。太陽のように明るい、長い金色の髪を背中で髪飾りでポニーテルにしていて、山吹色の瞳と同性から見ても女らしい顔立ち。薄紅色のワンピースを着ているが、胸があまりに大きすぎるためにボタンが上から3つが止まらずに開いた状態なために、大きな肌色の谷間がこちらを向いている。背中からは白い大きな翼が生えている。
私は戦女神と一緒なのでホッとしていた。まだ戦女神として学んでいる学生とは言っても、その強さは私達普通に神様になるべく勉強している人達よりも強い事は確かである。だからこそ安心して避難場所へと向かっていた。
「そう言えば……戦恋さん。【機械殺しの死神】とか【身内殺しの死神】ってどう言う意味なんでしょうか?」
私は何となく気になっていた事を戦恋さんに質問していた。それは重大な情報として教えられましたが、どうにもそれがどう言った情報なのかが分からないんですよね。その質問に対して、戦恋さんはこう答えてくれました。
「高位に位置する死神は大抵称号として【○○殺しの死神】と言う通り名が付いているんですよ。【機械殺しの死神】と言うのは、機械を殺す、では無くて機械で殺すからこそ【機械殺しの死神】と言う名前なんでしょう」
「なるほど……。あれ、じゃあもう1体の【身内殺しの死神】ってどう言う事? 同じ同族である死神を殺すと言う事でしょうか?」
「……あぁ、それは、ですね」
と、彼女は後ろに居た私に振り返り、
”腕に隠し持っていたスタンガンで私を麻痺させられていました”。
「あぅ……!?」
私は麻痺させられて床に倒れる。ど、どう言う事なのですかとルルリエルさんに聞く前に絶句した。何故かっていうと彼女の髪が”綺麗な亜麻色になっていたからである”。
可笑しい、彼女の髪の色は金色だったはずで、亜麻色なのはむしろ……
「そう、あなたの髪色なのでして」
彼女、そう、戦恋ルルリエルさんの姿をした何かはニヤリと笑っていた。
「本当ならばこの彼女の姿に化けてやりたかったんですが、仕方ないのでして。この際、あなたの姿に化けるので我慢するのでして」
そして戦恋ルルリエルに化けたその何かは、くるりと一回転する。一回転すると、そこに居たのは――――――――まぎれも無く、私だった。
「とある人間の姿を借りて、その人間の身内を殺す。それ故に【身内殺しの死神】。ボクこそは【身内殺しの死神】、シューバッハなのでして」
「み、身内を殺す……死神……」
な、なんて事……。もしかして私の姿で、私の身内を殺そうと言うのでしょうか? 私の身内、この学校で私の身内と言えば……。
「……ッ! も、もしかしなくてもアバユリ兄さんを……! そ、そんな事は……」
うっ! わ、私の身体は痺れて動かない……。どうやらさっきのスタンガンで痺れて動けないようです。
「そこで大人しく待ってればいいのでして。ボクはその間にあなたの義理のお兄さんである天見アバユリを殺して来るのでして。まぁ、義兄でも一応身内なので、身内殺しにはなるのでして。安心して欲しいのでして、あなたは今は殺さないのでして。
後であなたは天見アバユリの姿になって、身内殺しをやるのでして」
そう言って、私の姿に化けたシューバッハは義兄である天見アバユリ兄さんを殺しに向かったのでした。
……くっ! 早くこの麻痺をなんとかして彼女を追って、アバユリ兄さんを助けないと!
私はなんとかする為に、麻痺から回復する為に身体を一生懸命動かすのでした。