月裏さんとの密会(1)
「はぁ……。疲れた」
僕は割り当てられた宿屋の部屋で溜め息を吐いていた。
宿屋での僕の扱いは動物園のパンダのような物だった。珍しい物を見るかのような眼差しや、奇妙な物を見るかのような眼差しだった。どうやら10年に1度しか咲かないサボテンの花の蜜を飲んだと言うのは、相当な運が良い物らしくて、今日来たお客様さんはその強運にありつこうとしきりに身体を触って来た。またそのサボテンの花の蜜の味がどう言う物だったか知りたくて聞いて来るお客さんも居た。そう言ったお客さんには適当に「言葉では表現できない味」と言ってごまかしておいた。
お客さんは「へぇー」とか「ほぉ」とかとても興味深そうに言っていた。
嘘は言ってないよ。本当に飲んでいないから言葉ではどうしても表現できないし。
結局解放されたのはそれから2、3時間後の事だった。けれども衣食住付きで2部屋もくれてその上無料にしてくれたのだからこれくらいはしても良いだろう。
ちなみに僕が1部屋、姫と紅葉の2人が1部屋と言う割り当てにしておいた。初めは姫とならば一緒の部屋でも良いかなと思ったのだけれども、紅葉が言うに姫がそれは嫌だと言う事なのでこう言う事になったのだ。
「あっ、そう言えば……月裏さんと連絡を取らないと」
僕はお金がないのはひもじいので、月裏さんから何とか金を貰えないかと思っていた。月裏さんは連絡を取ってくれるとは言っていたが……一体、どうやって?
『あ、あの……呼びましたか? 朝比奈さん?』
「うわっ……!」
驚いてベッドから落ちてしまう。今の声は、月裏さん?
『あ、あの大丈夫ですか、朝比奈さん? これ、私の同僚の日向ラファエルに頼んで念話してるんですけど……何か問題が?』
「いや、なんでもない。なんでもない。ただ驚いただけ」
『そ、そうですか。良かったー……』
しかし神様にも同僚とか居るんだな、驚きだ。
『使用料2万払って良かったです』
しかもまさかの有料だったらしい。