ユラギーン(4)
「爆発で怖いのは主に3つ。辺りを吹き飛ばす爆風、爆破時に生まれる爆熱、そして爆発によって生まれる衝撃の3つ。しかしそれは爆発によって吹き飛んでしまう。故に私様様は魔法属性による追加攻撃を行っているんだけれども、この闇の黒色は違う! 全てを引きつける引力!
全てが飛んで行かずに、ただただ一点に収束する! 全てが一点に集中した破壊力と、その吸収力で相手は絶対に逃げられない! これこそ、黒千羽鶴・危機一髪! この攻撃で倒せない獲物は存在しえないのですよ!」
ハハハ、とユラギーンは吹っ切れたように笑う。いっそ清々しいと思えるほどに堂々と。そして姫とユリエル姫を見つめる。
「さて、残りを始末しよう。朝比奈揺に組みした物は即刻せん滅、そして死刑! 喰らえ、千羽鶴・死武の舞い!」
ユラギーンは宙に浮かんでいた4色で折られた千羽鶴に地点爆弾で爆発させる。姫と紅葉もまた、朝比奈達のように爆発に飲み込まれていた。爆発によって生じた大きな煙が2人の姿を覆い隠す。
「火炎、水圧、風塵、そして岩石。まぁ、補助系としてはそれほど大した物では無いけれども、爆破と混じればかなりのダメージになったでしょう。ただでさえ爆発は致死率が高いのに、それに輪をかけて致死率を上げた攻撃。
あいつらの死も、決まったような物なのですよ! カハハハハハハ!」
そう言いながら、ユラギーンは緑色の紙を宙に浮かべて、それを紙飛行機の形に折る。
「存在、作成、形成、機能開始。これぞ神折り紙、紙飛行機なりけり。
さて、彼女達はどうなってしまったのか。さっさと煙をどけて見ましょうかね?」
そう言いながら、ユラギーンは紙飛行機を飛ばして、煙の近くで地点爆弾を発動して煙を払う。
「さてさて、どうなってる……あれ?」
しかし、ユラギーンの前にあったのは茶色い地面が盛り上がって出来た土の壁だった。そして土の壁は4色折鶴の攻撃を全て受けていたが、それは何一つ貫通していなかった。
(可笑しいな、あれだけの爆発ならば土の壁の1つや2つ、破壊していても可笑しくないのに……)
そしてその土の壁は地面へと潜って行き、その壁の向こう側がユラギーンの視界に映る。
「なっ、なんでお前らが……!?」
そこにはほぼ無傷の状態の、朝比奈揺と姫、紅葉、ユリエル姫の姿があった。
「ば、馬鹿な! 魔法の要素も全て飲み込んで塵へと返す、黒の折鶴で作った爆発を受けて、どうやって生き残る!? 転移魔法もあそこでは使えないと言うのに! どうやって生き残った!」
「……何、簡単な事ですよ。手伝いに来てくださった精霊のお2人様が神力結界によって、結界を作って爆風を防いでくれました。魔法は使えなくても、神様の力とやらは使えたようですね」
紅葉のその言葉に「チッ……」と舌打ちするユラギーン。
「神の力……あんな精霊如きの身体では1回が限度……。爆発を防いで消えてしまいましたか。まぁ、次の1発で殺せば良いだけの話、なのですよ!」
ユラギーンはそう言って、再び黒の千羽鶴を宙に浮かべる。そして睨み付けたユラギーンは地点爆弾を発動させようとする。
「行きます、スポット……」
しかしその地点爆弾は爆発する事はなかった。その千羽鶴を彼女の視界から隠すようにして、岩が覆っていたからだ。それを見て、ユラギーンは怒り口調で彼を睨み付ける。
「あ、朝比奈揺!?」
「地点爆弾。視界に入った物を爆発させるその魔法で、鶴は爆発出来ない。そして地面も爆発出来ない。何故なら、岩が落ちてしまうから。
君の脆さは、既に月裏さんとルルリエルさんに聞いている」
ユラギーンは何も言えなかった。その通りだったからだ。ユラギーンの防御力はスライムよりも柔らかい紙レベルの防御力しか無く、岩1つで十分死ぬ可能性があったからだ。そこまで防御力が低いのは、ユラギーンが堕ちた際の補正だった。
朝比奈揺は大剣と聖剣の2つの剣を構えて、ユラギーンへと走って行く。その姿は遅く、走っているのに歩いているかのように遅い。
(はっ……! なんだ、あの遅さは! あんなの、的にしてくれと言っているようなものではないか! ならば、存分に地点爆弾で爆発させて……)
しかし、ユラギーンが地点爆弾を発動する事は出来なかった。何故ならば、彼女の眼を姫が放った札によって視界が覆われているからだ。
(くっ……!? 見えないと地点爆弾が発動出来ない! ならば、折り紙で……)
それも出来なかった。全ての紙の魔力が何者かによって奪われてしまっていて、使えなくなっていたからだ。
(リッチの紅葉の仕業か! これは不味い! 急ぎ撤退を!)
撤退しようとしたが、ユラギーンの足は何かに絡みつかれてそのままこけてしまう。ユラギーンは無様にこけて、受け身も取れなかった。痛みが身体に伝わる。
(今度はユリエル姫の紐か! しまった、もう打つ手がない! こうなったら……最後の手段! 奥儀、紙謝り)
「も……もう、止めて……。私様様を痛くしないで……。謝るから、謝るから許して……」
ユラギーンは涙を流しながら、朝比奈にそう訴えかける。
(女の涙に、男は耐えられないはず! 反省してはいないけれども表面上は反省感ばりばりを促すこの紙謝りを受けて、男は黙っていないはず!)
「……もう、良い。皆」
と、朝比奈が言うのをユラギーンは言って、ユラギーンは口には出さなかったが心の底から面白がっていた。
(ヤリ―! 流石、私様様! こんな涙に騙されるなんて、男って本当に馬鹿だね! やっぱり、美しいは正義、女にして正解……)
「こいつは、何も反省していないのだから。二剣流剣技、叩き!」
「……っ!」
そして、ユラギーンは朝比奈の聖剣と大剣を身体に思いっきり打ち付ける技にて身体に強烈な負荷がかけられる。身体中の血が逆流して口へと来て、ユラギーンはその血を吐きだす。しかし、尋常じゃないほどの痛みはユラギーンにかかっていた。
(な、何故!? どうして私様様の【紙謝り】が見破られた!? この技で落ちない男は居ないのに!?)
「ど、どうしてですか!? どうして私様様は謝っているのに、聞いてくれないんですか!」
その言葉に対して、朝比奈は溜め息を吐いた様子で、しご当たり前のようにこう答えた。
「謝っている奴が、私様様なんて言うか。バカ」
(で、ですよねー)
そして朝比奈は再び、ユラギーンに大剣と聖剣を、先程以上の力で叩きつけるのだった。