ユラギーン(3)
「――――――――ミノタウロスよ。私様様の指示通りに動いて敵を倒せ」
ユラギーンがそう言うと共に、ミノタウロスは身の丈に似合った斧を振るってユリエル姫の元へと向かっていた。ミノタウロスの大きな身体の身の丈に似合っていた斧を防ぐために、ユリエル姫は片方の刀の紐で斧の持ち手を紐でくるくると巻き付けて、もう片方の刀で斧の刃を折ろうと何回も何回も叩きつける。しかし、紙にも関わらずその斧はなかなか折れない。姫の元には20数枚の赤色、青色、緑色、茶色の4色の手裏剣が飛んで来ており、それを姫は火炎の魔術によって撃ち落そうとはしているがなかなか全部を撃ち落とす事が出来ない。当たりそうだけれども途中で高速移動しながら避けているのでなかなか当たらない。
そして僕と紅葉、それから僕の肩に載っている精霊姿の月裏さんとルルリエルさんの前には、敵であるユラギーンが紙を宙に飛ばしながら僕らの前に立っていた。
「月裏ラキナエル、それから戦恋ルルリエル。まさか分霊化と使い魔化を使ってまでこっちの世界に降りて来るとは、私様様は思いもしなかったわ。けれどもまぁ、そんな一個人に肩入ればかりしていると、私様様のように落とされてしまいますわよ?」
と言うユラギーンに対して、月裏さんとルルリエルさんが言葉を返す。
「……これは主神様、と言うか神様達の中で決まった事なので」
「と言うか、その似合わない女性言葉は何? 少し気持ち悪さすら覚えて来るのだけれども?」
月裏さんとルルリエルさんの言葉に対して、ユラギーンはケラケラと笑っている。
「そうですか、そうですか。私様様も遂にそんな場所まで来てしまいましたか。
……まぁ、良いわ。朝比奈揺」
彼女はそう言って僕を睨み付ける。紅葉もいつ攻撃が来るかと詠唱を準備しながら、待ち受けている。
「……あなたにはあまり施しが出来なかったわね。あなたからは奪ってばかりだったもの」
「それは姫やユリエル姫の事を言っているのか?」
「違うわ。もっと色んな事よ。それを語るには及ばず。それをあなた如きが知る事はないわ。と言う訳で、私様様はあなたに1つだけ施しをあげましょう」
彼女がそう言うと共に彼女の周りに赤、青、緑、茶色の4色の折鶴が出来上がる。そう、折鶴。千羽は居ようかと言うくらいの、空に舞う4色の紙の鶴。
「存在、作成、形成、機能開始。これぞ神折り紙、千羽鶴なりけり。
あなたに2つだけ教えてあげる。1つは、あなたが本来貰うはずだった魔法、地点爆弾の話。視界に映る地点に爆弾を置いて任意で爆発させる魔法。この魔法はそれが魔力を帯びた場所だと、帯びた魔力属性によって爆破にさらに属性攻撃が追加させられる。
そしてもう1つは……」
何を言いたいのか、さっぱりだ。こいつは僕に一体何を伝えようと……
「朝比奈さん、上です!」
「……上?」
と紅葉に言われるまま、上を見るとそこには千羽鶴が僕目がけて急速落下している。しかもそれは先程目の前に作られた物では無い。先程作られたのはまだふわふわと宙を漂っているからだ。目の前で作られた千羽鶴は宙を漂っており、今僕目がけて落ちて来ようとする千羽鶴は全く見覚えが無い。なにせその千羽鶴は、全て黒色をしているのだから。
「なっ……!? い、いつの間に!」
「――――――――――この世には、理不尽なる理屈なき、聞いても他人には理解されないような理由で殺される奴らが五万と居る事を思い知ってくださいませ!
喰らえ、黒千羽鶴・危機一髪!」
そして宙を飛んでいた黒い千羽鶴達は一斉に白い光で包まれたかと思うと、目の前で巨大な闇の塊となりながら爆発して、僕達を飲み込んでいた。
「――――――――これぞ神折り紙、黒千羽鶴なりけり。そして敵は死するなり」