幸せのサボテン
「コポン! コポン、コポコポン!」
「ここは……?」
姫に連れて行かれて辿り着いたのは、宿屋だった。宿屋の名前は『ハツカイ』と書かれている。姫はここに来た所で鳴き声を鳴らして、必死に自分の意見を伝えようとしている。
「なぁ、紅葉。姫は何を伝えようとしているの?」
「えっと、『私が中に入って化かしてここを制圧してきます』って言っていますよ?」
「とりあえず姫、却下な」
流石に宿屋を化かして泊まらせてもらうと言うのは犯罪臭がして嫌だ。何とか犯罪に関する事は出来うる限りは避けたいし、こんな金がないと言うだけで宿屋を不法に占拠するのはいけない事だろう。ちらっと見るが、宿屋の値段は一番低いのでも1200Gと書かれており、入れそうにない。
「とりあえず2人には悪いけど今夜は野宿で……」
「―――――おや? お客さんかい?」
と帰ろうとすると、中から40歳くらいのひげを生やしたおじさんが出て来た。山の登山者と言うか、なんとなくそんな感じがするおじさん。その上にエプロンを付けている。男の料理人と言う感じだろうか?
「あっ、いや僕達は……」
「おや? お前さん、もしかして幸せのサボテンを飲んだお人か?」
「幸せのサボテン?」
あぁ、そう言えばあったな。神様から押し付けられたスキルの中に、10年に1度咲くサボテンの花の蜜を飲んだだけだと言う『幸せのサボテン』を貰っていたな。けれども別に僕自身は飲んでないし、そのスキルを貰ったからと言って身体的に変わった特徴がある訳ないんだけれども。
「はぁ、まぁ……そう言う事にはなっていますね」
一応、スキルを貰っているから飲んでいると言う形にはなっている。と言う事にしておいた方が良いだろう。
「あぁ! やっぱりそうだったのか! いやー、お前さんに会えるなんて。さぁさぁ、早く入ってくださいよ」
「はい? えっと……僕達お金が……」
「良いよ、良いよ。話題のあの人に泊まって貰えたんだからこれ以上嬉しい事はないって。無料で良いから泊まっていけよ」
良く分からないうちに、僕達は山男のおじさんに背を押されて中に入って行った。
これはその後で知った事なのだが、どうやらその幸せのサボテンと言うのは大変貴重な存在らしい。
凶悪な魔物が住みつき、さらにじりじりと照りつける暑すぎる太陽の日差しと、極寒に近い夜の寒さ。そして10年に1度しか咲かないとされるサボテンのごく僅かな花の蜜。
そんな花の蜜を飲めた人間は、宿屋の間では幸運な人間として扱われてるらしく。僕が泊まるだけで運気UPがなると考えているらしい。
―――――――そして僕達は幸運にも宿屋に泊り、野宿を回避出来た。
まさか『幸せのサボテン』がこんな効果を持っているなんて、思っても見なかったよ。スキルの使いどころは分からない物だね。