姫様の稽古
「……稽古を付けて、欲しい?」
僕の質問に対して、ユリエル姫は疑問符を浮かべていた。
「……私のは、我流の二刀流で、長刀を主に使った戦闘技術ですよ? けど朝比奈さんは大剣と聖剣、でしたよね?」
「けど剣の技術を教わるだけでも違うと思うんだ」
僕はそう言った。まだまだ僕は聖剣の技術も、もっと言えば大剣の技術は全くの未熟者としか言いようがない。そして僕のパーティーの中で唯一剣を扱っているのはユリエル姫。だからこそ僕はユリエル姫に剣を習おうと思っていた。
これはユラギーン・ナイトを倒すために僕が必要だと思って協力を願い得たのである。とは言ってもユラギーン・ナイトを倒すと言う目的のためだけに大剣の技術を習いたいと思った訳ではない。大剣の加護を貰っているのに、大剣が全然使えない自分の未熟さは前々から思っていた事だし、それ自体は何も可笑しな所はないと思う。
「ともかく、僕は強くならないといけないんだ。そのために手伝ってくれると助かる」
「……まぁ、私は協力する分には何も問題は無いんだけど、私は厳しいよ?」
「望むところさ」
物事に簡単な道が容易されているとは思っていない。努力しないと簡単にはいかない。だからこそ僕はそれを意識しつつ、大剣を構えた。
「……じゃあ、まずは大剣の正しい振り方を覚えて貰う。大剣と言うのはただ振るっているだけでは効果を発揮しない。きちんと、正確に武器の振り方と体重移動の方法を覚えて貰う」
凄い基本的な事から入ったな……。もしかしてユリエル姫は基本に忠実に習って来たんだろうか?
……習って来たんだろうな。もし僕が姫様の戦闘教育係だったら基本を忠実に覚えさせるもの。
「……剣とはリピート。反復練習。頭でそうだと叩きこみ、身体でこうだと覚え込ませて、心でどうだと相手に感じさせるほどにまで強めないと。
……さっ、その後は足移動、姿勢、そして呼吸法を覚えて貰いましょう」
どうやらユリエル姫は先生になると相当な基本忠実タイプになるのだとこの時、僕は知ったのであった。
「……ふぅー」
と、ユリエル姫はある程度の練習事項を朝比奈さんに押し付けた後、自分は遠くから観察して置くからと言って壁で休んでいた。
「お疲れ様、ですね」
とユリエル姫の横に座った紅葉が水の入ったコップを差出して、ユリエル姫はそれを素直に受け取る。そして水を1杯飲み干す。
「どうですか、朝比奈さんの出来は?」
「……想像以上、ね」
とユリエル姫は紅葉の質問にそう答えていた。
「……聞いた事を一瞬で自分の物にしているわ。あれは技術を水の用に吸う、そうスポンジね」
と、既に教えたこと以上の事をしている門下生を指差すユリエル姫。それは恐らく呪い無効化耐性の成長補正、及びルルリエルの加護のおかげでしょうねと紅葉は思っていた。
「……ともあれ、これならばすぐにでも王国の兵士として働けるよ」
「冒険者としてはどうですか?」
「……まだまだ自分なりの位置を模索中。でも、それを見出せば良い物になると思うわ」
「そう、ですか」
と、紅葉は言い、「……そうですよ」とユリエル姫は答えていた。