メモリアル・コミュニケーション
『簡単に言うと、あなたがこの世界に転生されたのはイレギュラー中のイレギュラー。バグ中のバグ。エラー中のエラーと言う、間違いなく可笑しいとしか言いようがないほどまでに狂った異世界転生なのよ。運命の神としてこの運命は間違っていると断言しても良いわ。
だからこそ、あなたにはやり直しの機会が与えられる。
今までの不運が嘘だったかのような幸運と、由緒ある名家の生まれ。結婚してくれる許嫁の女の子はあなたの事を考え、あなたの事を心から愛してくれるような女性。山なし谷なしの人生は流石に出来ないけれども、それでも他の人よりかはかなり低い、言うなれば『丘ありくぼみあり』な人生。可愛い人や美しい人に囲まれた、男なら誰もが夢見るようなハーレムライフだって可能だし、あなたならどんな賞だろうとも望めば手に入る位置にしても良いわ。
これは破格中の破格と言っても良いようなものだけど、今までのあなたの人生と私達が犯した失態からしたら、安すぎるほどの処分だと思うわ。
―――――――――――どう? この条件ならば転生したいと思う?』
と、メモリアルさんは甘言を囁く。確かにこれを逃す方が可笑しいとまで思われるような破格の申し出だ。何一つとして不満はないし、何一つとして可笑しな事はない。何一つとして足りないとも思わない、むしろ多すぎるくらいだと思う。
けど……
「その世界に、姫や紅葉、それからユリエル姫は連れて行けますか?」
と言う僕の質問に、メモリアルさんは『無理わよね』と答えた。
『まず、私があなたに提案した条件はあなたが居た前の世界。剣も魔法も、ましてやモンスターも居ない世界。そんな世界で団三郎狸と玉藻前のハーフの姫、死体ながら動いて魔法も使えるリッチの紅葉、そしてモンスターが居る世界の王族教育を受けたユリエル姫。どの人物もあなたの世界に持ち込むというのは不可能だわ。と言うより、今の条件はあなただけに提案したのであって、3人は関係なしでお願いするわ』
つまり何一つ不満がないが3人が居ない世界か、今まで通りの3人と居る世界。どちらかを選んで選択しないといけない。
『さぁ、選んで。あなたの選択を』
「……僕は」
僕は目を瞑って思案する。
頭の中には前の世界の家族や友人、それからこれから訪れるだろう輝かしい未来。姫の顔。紅葉の顔。ユリエル姫の顔。そしてこの世界での冒険。そして今まで通りの日々。
それらを吟味して、僕は選択した。
「―――――――僕は今まで通りの世界で、3人と共に冒険をします」
『それがあなたの選択でよろしい? 後悔はない?』
「後悔はある。けれども今の僕にとって、一番大切なのはそれだから。後になって後悔するかも知れない。けど今はこの選択を大事に思いたい」
もしかしたらもう少し前だったり、もう少し後だったら答えも変わっているのかもしれない。けれども今、この場において僕の選択は「3人と共に居たい!」、それが今の僕の答えだ。
『―――――――そう……。あなたに惹かれる人が多いのがなんとなく分かった気がするわ』
「えっ……?」
『いえ。なんでもないわ。そろそろラキナエルが怒って怒鳴り込んできそうだから替わるわね。
じゃあ、また。機会があれば』
そしてメモリアルさんとの話は終わった。
後で後悔するかもしれない。けど今はこの選択をして僕は満足していた。