朝比奈とメモリアル
その夜は豪勢なパーティーが開かれた。初めは宿屋の一部を借りた4人だけの小さなパーティーだったが、酔っ払いやらお節介な人達がパーティーを盛り上げていつの間にか宿屋全体を巻き込んだ大掛かりなパーティーになっていた。宿屋の主人は「まぁ、祝い事って言う物は皆で盛り上がった方が楽しいのが通例だからね。それに祝われているのがあの『幸せのサボテン』のスキル保持者でしょ? 私達にも幸せの分け前頂戴よ。この前、結婚したんだからさ」と言っていた。その結婚の相手と言うのが驚きだった。
青い長い髪とFカップはありそうな胸を持つ絶世の美女。それはあの時、依頼にかかれていた看板娘のお姉さんだった。そしてその主人はあの下の依頼に書いてあった【恋の手助け(恋をしました。あの看板娘さんに告白する勇気をください!)】の依頼者だった。どうもそう言う事が得意な冒険者さんに依頼をしてもらって、看板娘さんと主人は結ばれたらしい。自分でも記憶の隅に追いやっていたような出来事だったけれども、これはこれでありかなと思いつつ思っていた。
その豪勢なパーティーは他の商店も明かりを落とすような、本当に深夜真夜中まで行われていた。
「じゃあ、私は2人を部屋までお連れして置きますね」
「あぁ、頼んだ」
紅葉は顔を赤くした姫と同じく顔を赤くしたユリエル姫を肩に背負ってそのまま部屋に運んでいた。ちなみにあの2人は酒は飲んでいない。2人ともまだ20歳は越えていないので、成人が12歳と言うこの世界ではありだとしても無しでと飲ませなかったからだ。
2人が酔った原因は場酔い。果物の果汁ジュースしか飲んでいないと言うのに、その場の雰囲気に文字通り飲まれて酔っぱらってしまったのだ。
ちなみに僕は20歳以上で酒も飲んだが、大学に行っていた時に酒を飲まされていたのである程度大丈夫。紅葉はそもそもアルコールが死んだ脳に影響しないからと全く酔っていなかった。1人で酒20本以上飲んでいたのに、稀有な奴。
そしてそのまま、僕はベットに横になる。
「そう言えば、最近月裏さんと話していないなー」
月裏さんとは念話で繋がっているからいつでも連絡が取れるからと、なかなか連絡する機会がなかった。あと、別の街に移動してて疲れていたから。
もう深夜も遅いが、酒が入ってしまっていてなかなか眠れない。
話し相手になるかな、と念話をしてみる。すぐに相手が取ってくれた。しかしその人物は知らない人物だった。
『もしもし。初めまして、だわよね』
聞いた事が無い声なので、「そうです」と答えて置く。これは月裏さんにかけるための念話、それを取ると言う事は彼女も神様の1人なのだろうか?
『私の名前は、戦恋メモリアル。あなたの知る大剣の戦女神、戦恋ルルリエルの血縁にあたる、運命を司る神の主神よ。今回は訳合って月裏さんの念話を使わせて貰ってあなたと喋っているの』
と、彼女は答えてくれた。
戦恋メモリアル。運命を司る神。そして……
「主神?」
主神って、なんだろう?
『主神とはいわば中間管理職のような物よ。神の世界だと同じ物を司る神が複数いるのね。主神と言うのは、その同じ物を司る神の中でも1番偉い神の事を指すわ。
主神、次席、補佐、副補佐の順に偉さの度合いが下がって行って、臨時的にまとめるために代理と言う物が付く場合もあるわ。理解出来た?』
「は、はぁ……。なんとなく偉い神様だと言う事は……」
『その認識で構わないわ。もっと簡単に言うと、世にある全ての赤い糸を結び付けているのが私! 的な感じよ』
ごめんなさい。その説明だと全然分からないのですけれども。
『私が偉い立場にある神様と言うのは理解出来たわよね?』
「え、えぇ。まぁ……一応は……」
『その上で私はあなたに質問するわ』
と、メモリアルさんはそう言ってこう告げた。
――――――――――あなたは、元の世界に戻る気はない?