祝典
『鋼の城』で眼馬さんの護衛依頼を完了した僕達は、眼馬さんと別れた。眼馬さんからは「私の方から知り合いの商人達に、『幸せのサボテン』を持ったスキル保持者が店に買い物に来たら割安になるように頼んでおくとするよ」とそう言って眼馬さんは店を開きに学術都市ダラムアトルのどこかに歩いて行った。
「―――――では、朝比奈揺さん。あなたは今までの依頼達成率、及び人格を認めて、Dランクになります」
と、学術都市ダラムアトルにある『鋼の城』の受付さんは、そう言って僕のギルドカードを返して来る。そこには今までの『E』と言う文字では無く、『D』と言う文字が刻まれていた。
「……Dランク」
「本当の事を話すとするならば、あなた方一行の中にユリエル姫が居る事が大きな要因となっているのでしょう。
アトラシ王家第4王女、ユリエル・アトラシ。彼女に王位を継ぐと言う選択肢は限りなく0に等しいですけれども、王族は王族。その姫様が所属するパーティーのリーダーがうちのギルドの最低ランクのEランクと言うのは、あまりにも体裁が悪い」
つまりは……僕の実力と言う事では無く、ユリエル姫が居るからと言う理由で僕はDランクになれたのか?
「勿論、あなたの今の実力、気合、そして今後の成長に期待しての数値だとは思われますが、これは大変珍しいケースです。これからのあなたのご活躍に期待しております」
「あ、ありがとうございます」
なんにせよ、評価されて悲しいと言う事はない。僕は素直に頭を下げる。
僕がいま宿泊している宿屋、『希望の架け橋』に帰って来ると3人は思い思いに喜んだ。
ユリエル姫は宴会だと言って宿屋の主人に沢山のごちそうを作るようにお願いしていた。しかもそれが彼女の自腹なのだから、僕としては頭が上がらないだろう。
姫は「お祝い! お祝い!」と張り切ってどこかに出かけていって、薬草や鉱石を沢山取って来た。「これを売らせて! それでお金を作って、プレゼントを買うの!」と笑顔でそう言って来たので、良いよと答えると尻尾を嬉しそうに揺らしながら買い物に出かけた。
部屋に残ったのは僕と紅葉。紅葉は僕の座っているベットの横に座る。
「凄いね、朝比奈さん。Dランクって低いように思えるかもしれないけれども、この速さの昇格は多分、私の前の世界だと新聞でニュースになっていたよ」
「そ、そうかな? なんだか、こう……ユリエル姫が居るからと言う理由だけでDランクになっただけだけど」
僕が照れるようにそう言うと、彼女は「ううん」と言って首を振るう。
「もし仮に私がギルドの職員で、朝比奈さんがあまり良くない人だとしたらそんな人をDランクにせずに、姫様を別のパーティーに無理矢理移籍させると思うな。それをしないでDランクになったって事は、ひとえに朝比奈さんが人々に良い人間として認知されている証だよ」
「……これも『幸せのサボテン』の効果、とか?」
「運だけで勝ち残れる世界と言うのは、この世でたった1つだけしか無く、そしてその世界もきっと上に行けば上に行くほど勝ちにくい世界になっているんだよ。この世界と言うのは、努力をして結果を出した人間に優しくて、努力もせずに結果を出していない人間に厳しいんだと思う。
これは私の意見だし、私以外の人から見たら違う見方も出来るんじゃない。けどね―――――――」
彼女はそう言って、立ち上がり僕に抱きついて来る。抱きつくと言っても、姫のような突進的な無理矢理的な抱きつき方では無く、母親を思わせるような包容力と母性を感じさせる抱きつき方。彼女の身体はリッチなため、母親のような安堵感を覚える体温は感じないけれども、それでも僕は安らぎを、安心を覚えていた。
紅葉は優しく僕の髪を撫でる。
「―――――今、私だけはあなたの事を褒めてあげたいと思う」
紅葉はそのまましばらく、僕の髪を撫で続けた。