式紙の魔物
学術都市ダラムアトルの裏道に面する2階建ての宿屋、『エレクトロ』。その2階の一室にてユラギーンは「フフフ……」とほくそ笑んでいた。
「そろそろ私様様の仕掛けた魔物達が、朝比奈さんとの戦闘を行っている事かね?
神界から落ちる際に豆羽ミラキジェスから譲り受けた、あの2体のモンスターを見せる時が来たようだ」
豆羽ミラキジェスから堕天する際にこっそりと、譲り受けた2体のモンスター。
そのあまりの凶暴さから扱うのが不可能だと思われ、候補すら選ばれなかったモンスターのうちの2体。
「死神モト、妖鳥ネヴァン。どちらも私様様が扱えないようなイカレタ奴らだったけれども、それは彼らに忠誠心と言う物がかけていたから。私様様のフォーマット・ウォルドレット、通称神の作りし紙によって、忠誠心と言う物を嫌でも植え付けられた彼らに、朝比奈達は戦う術は無い。
本来、こんな所にはいない凶暴すぎて、強すぎるあの2体の魔物に勝ち目はないだろう」
「フフフ……」と不気味に笑うユラギーン。
「もし仮に、万が一、私様様が放った死神と妖鳥を殺せたとしても、今度は私様様が殺しに行けば済む話。何も問題は存在しない。
―――――さて、来るのを待つか、死ぬのを待つか。どちらにせよ、楽しい昼寝になりそうです」
ユラギーンはそう言って、ぐっすりとベッドで横になって眠りについた。
その頃、朝比奈達は大変なモンスターに出くわしていた。
「な、なんなんだ、こいつらは……」
眼馬さんは腰が抜けたのか、そろそろと後ろに後退している。無理もない。だって、僕も後退したいと思うような奴なのだから。
1体はツタンカーメンを思わせる金色の宙に浮かぶ棺。蓋が少し開いており、そこから黒い手がうやうやと出ている。そしていくつも出てる黒い腕の1本には『忠』と書かれた姫が持っているような札が張り付けられている。
もう1体は黒い大きな鴉。目はまるでカメレオンのようにくるくると回っており、獰猛な爪の先には水が垂れている剣を持っている。そして同じように頭の真ん中には棺のモンスターに貼られているのと同じような札が張り付けられている。
その2体が発する覇気。それはこの前、戦ったヴェルモットクエイ以上の威圧感を生んでいた。
「……不味いです! あいつら、危険指定モンスターですね!」
「危険指定モンスター?」
姫の言葉に困惑する僕に、紅葉がさっと追加情報を教えてくれる。
「危険指定モンスター。どんな転生者だろうとも使いこなす前に殺されてしまうだろうと思われていたモンスターの事です。
あの棺のようなモンスターは死神モト! 死と不毛を司る死神です! そしてあの鳥のようなモンスターは妖鳥ネヴァンと言って、戦いを混乱させる怪鳥です!」
2人がここまで焦るってそ、それってよっぽど不味い相手と言う事なんじゃ? と言うか、そんなどんな転生者だろうとも使いこなせないような危険極まりない相手がどうしてこんな場所なんかに?
「……コポン。もしや日向ラ……ルの策略……」
姫は何か喋っているみたいだが、良く聞こえない。と言うか、そんな事よりも
「……まずはこの2体をなんとかしましょう」
ユリエル姫がそう言って背中の2本の刀を抜いて、構える。僕も続けて構え、いつでも戦えるよう聖剣を構えた。