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余り物には……福がある?  作者: アッキ@瓶の蓋。
そらのおちたもの
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ダラムアトルの平和な日常

 学術都市ダラムアトル。この街の全ては魔法の飽くなき研究として認知されている。

 例えばこの街全体に水が自動的に流れ出す仕組みになっているのだが、これは『水を循環させる魔法がいつまで効力を発揮するか』と言う壮大なテーマの元、設計されている。例えばとある有名店で出されるメニューは、炎は全て魔法の炎であると言う信念を持っていたりする。例えば宿屋でも安心して安らかに眠れる魔法を研究する毎日だ。この街において、魔法とは人生であり真理、そして生活の一部に変わっている。



 そんな街のとある料理店に、1人の女性が来店して来た。

 鈍色のショートヘアー、くまだらけの目と痩せすぎとでも言いたげな顔つき。着ている服はぼろぼろのローブ。

 明らかに不審者や流浪者として表現されるような彼女だけれども、料理店においてはお客様は神様であり、お金を持っている以上はお客様である。幸い、彼女は金貨袋をテーブルに置いたところを見て、それなりの金を持っている事は分かったので、無銭飲食はされそうにないなと、ウエイターは思っていた。



「ご注文は何になさいますか?」



 ウエイターがそう聞くと、男はこう答えた。



「……この、ルフールのステーキ。後、店にある調味料をあるだけ」



 ウエイターは一瞬可笑しな注文だと思ったが、かける必要もないような料理に調味料を求める客は要るし、別に可笑しな事でもないかと思った。きっとこの人物はどんな料理にでもかけるべき物と言う物があるのだろう。ウエイターはそう思った。



「かしこまりました。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」



「あぁ。頼みます」



「では、少々お待ちください」



 そう言って、ウエイターはシェフに注文を伝える。

 この店のシェフ、ツヴァイ・イアンはこの道20年のベテランシェフであり、例えどんな料理であろうとも全身全霊をこめて料理する事を信条としたシェフだった。例え、どんな料理だろうと細心の注意とお客様の笑顔のため、料理する。



 まず、ツヴァイシェフは材料となるルフールを取り出した。ルフールとはこの辺りの地域に多く生息する牛のような姿をしたモンスターであり、薄くスライスしてもそれなりの味が楽しめる大味の牛だった。美味しいけれども、味が濃すぎる事で敬遠されがちのこのルフールをツヴァイシェフは鮮やかに調理する。



 大味のルフールをきちんと美味しく食べられるように。かつボリュームに文句が出ないように。ツヴァイシェフはルフールを絶妙の薄さで切り分けていく。何回切っても同じ重さにスライス出来るのは職人技だと言えよう。そしてそのルフールをさっと焼き、仕上げにこの街原産の赤こしょうと特製ソースをかけて、ルフールのステーキは完成した。その間、3分もかかっていない早業だ。



 速さ、そして美味しさ。見た目。全てに彼なりに拘りを持って作った料理に、ツヴァイは満足してすぐさまウエイターに運ぶように命じた。



 ウエイターはそのルフールのステーキと、注文にあったこの店のお客に渡す用の調味料を彼女の前に置く。



「お待たせしました、ルフールのステーキです」



「どうもありがとう」



 彼女は自然な動作で礼をして、側にあったルフトマトのケチャップをぶっかけた(・・・・・)



「えっ……?」



 ウエイターはそのあまりの大胆さに拍子抜けしながらも、彼女の行動は続く。

 ソースを浸るくらいにまでかけ、赤コショウを辛さが出るくらい多くかけ、最後に白いツヨネーズで周りを囲んだ。しかも三周。



「いただきます」



 彼女はそう言って、優雅な動作で食べ始める。しかし食べているのは調味料だらけのルフールのステーキ。シェフの心遣いを全て無駄にしたような食べ方である。もしここにシェフが居たら、倒れてしまっただろうとウエイターは思っていた。



「……良い赤コショウを使ってますね。ソースもルフトマトのケチャップも最高です。ツヨネーズも品質良好と言うべきでしょう」



「あ、ありがとうございます」



 ウエイターは一応礼儀として頭を下げたが、内心は穏やかではなかった。

 彼女が褒めていたのは全て調味料、ツヴァイシェフが丹精込めて作ったルフールのステーキについてのコメントは彼女の口からは一言も聞けなかった。



「ごちそうさまでした。俺様様(・・・)-―――――いえ、今は私様様(わたしさまさま)の舌を震わす料理があるとは恐れ入りました。シェフによろしくお伝えください」



「お、お会計、ありがとうございました」



 そして彼女は出て行った。ウエイターはこの事を何としてもシェフに伝えてはならないなと心に強く刻み付けた。



 そんなウエイターを驚かせていた彼女は、「暑い……」と言ってぼろぼろのローブを取る。

 その下から出て来たのは、真っ白なワンピース。いや、真っ白な紙を貼り合わせたようなワンピースとでも言うべき代物。鈍色の髪が風でさらさらと揺れるにつれて、服代わりの紙もさらさらと揺れる。



「全く……。まさか転生する際に性別を間違えるとは、私様様も失敗したわ。けど神様連中を欺けると言う意味では成功ですね。

 さて、早速だがあの朝比奈揺を地獄に叩きつける案でも考えるとしますか。私様様は未だに名前を変えていない彼を許せないのだから」



 ―――――――彼女の名前はユラギーン・ナイト。元は、夜比奈ユラギーンと言う転送の神の主神を務めた神様だった。

 ちなみにルフトマトはこの世界でのトマト、赤コショウは黒コショウ、ツヨネーズはマヨネーズみたいな物としてお考えください。

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