姫と王女の修羅場
「と言う訳で、私は1人の人物を推薦しようと思っていましてもう少ししたら会う約束をしていますので、会って貰ってよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ……。紅葉が言うのならば良いんだけれども……」
紅葉が用意してくれたのならば、悪い人物ではないだろうし……まぁ、良いでしょうし。
「姫もそれで良い?」
「紅葉さんが用意してくれたの? ゆらぎんが良いのならば、私はそれで良いよ!」
姫もおおむね同意見のようだ。まぁ、あんまり素気無くするのも可哀想ですし、とりあえず話をしてみない事には何も分からないし。
「あっ、そろそろ来たみたいですね」
と、紅葉が入り口の方に視線を移す。僕も何事かと思いながら、そっちの入り口の方に視線を移す。何故か入り口の方が騒がしい……何事?
「おい、なんであの方が……」
「いったいどなたに用なんだろう?」
「俺様様も話しかけづらいよ……」
「おい、誰か話しかけて来いよ」
「いや、不用意に話しかけたらこの街に居られなくなるってばよ」
「そ、そうだね。明らかに高貴すぎるオーラが……」
「あぁ、無謀と朝日といつの日か……。あぁ、高貴なオーラに話しかけなど不要なり……」
「ここでオラが話しかけて、勇気を見せつけるんだ……」
な、なんか物凄い熱気があるって事だけは伝わって来るんですけれども……。な、何事なんだろうか?
そしてその群衆をかき分けて1人の女性が現れる。
薄い黄緑色の髪はさらさらと伸びていて下に行くほど少しずつ水色が混ざっていて、そんな髪を肩の下辺りにまで伸ばし、薄い水色のジャージを着たような服装。背中には二本の長刀を紐でくくりつけている。そして髪の毛の上には赤いカチューシャを付けている。そして身に溢れるほどの美しい高貴なオーラ。
「―――――――……待たせてすいません。少し遅れてしまいました」
「あ、あなたは……ユリエル姫?」
そうして僕達の前に現れたのは、僕が呪いを譲り受けて完治させた第4王女のユリエル・アトラシさんでした。
「……私、朝比奈さん達と一緒に冒険をしたいです。ご一緒してもよろしいでしょうか?」
彼女は自然に空いていた席に腰掛けて、首をかしげながらそう聞いて来る。
「……私は剣技に自信があります。なので、前衛としてお役に立てると思います。お父さんとお母さんからは、あなたの好きにしていいと言っています。そして私はあなたと冒険を共にしたいです」
彼女はそう言って、手を差し出して来る。
(……確か第4王女のユリエル姫は、剣技に優れている事は有名。自信があると言う言葉も嘘ではあるまい。国王と女王様が好きにしていいと言うのならば、連れて行っても問題は無いだろう。
良い人だし、彼女が病気で籠の鳥みたいな生活を送って来たんだと思う。だったら、僕は彼女と共にあって共に冒険をするのも良いだろう)
僕はそう思いながら、別に彼女に何の問題もない事に気付く。彼女は良い人だし、姫と紅葉とも良き関係が築けると思う。何も問題は無い。だとすれば、僕が敢えて断る理由はどこにも無いのだ。
「あぁ。じゃあ、一緒に冒険を共にしよう、ユリエル姫」
僕はそう言って、彼女に手を差し伸べてパーティーとして勧誘しようと思って握手をお願いした。そうして彼女もその意思を伝えようと、握手を受けようとして
「――――――――ダメ―!」
しかし、それを邪魔する者が居た。それは誰あろう、姫だった。姫はいきなり僕と彼女の間に割り込んで、僕の腕を掴んで「フガー!」と怒っている。
「紅葉は良いけど、王女様は駄目! ゆらぎんは私と紅葉の物! その間に割り込む人は許さない!」
「……パーティーメンバーとして、ちゃんと聞いてはくれませんか? 姫さん?」
「嫌! 嫌、嫌嫌! 私は許さない! これ以上の暴挙は許さない!」
「……けど、紅葉さんも朝比奈さんも良いと言っていますが?」
「けど、私は嫌なんだもん! 嫌、嫌なんだもん!」
何故か姫はユリエルの事を嫌って、ユリエルを突き放そうとしている。いったい、どうしたと言うんだろうか? なんでだろう、これを世間一般では修羅場と言うんだろうか?
姫とユリエル姫の口喧嘩はその後、数十分続いたのであった。