王女と紅葉
朝比奈さんと姫の2人が出て行ったのを見てから、私、紅葉は『鋼の城』へと向かって行きました。勿論、朝比奈さんに代わってギルドに依頼報告をするためです。
「これが依頼を達成した証拠である王家の指輪です」
「はい、確かに。確認しました、朝比奈さんの代わりに報告してくださりありがとうございます」
受付の人はそう言って、持っていた王家の指輪を返してくれる。どうも、と私はそれを受け取って置く。
「おいおい、マジか……。ユリエル姫の病気って治ったのか」
「嘘! お、おい! 今すぐ求婚しねぇと!」
「おぃ、てめぇ! お前、ユリエル姫と結婚するのは無理だよなーって言ってたじゃねえか!」
「馬鹿! あれはただの冗談だっつーの!」
「と言うか、姫様に手を出すとかマジで無理じゃね?」
私が王家の指輪を受け付けに渡したのを見て、ギルドの中に居る人達が騒ぎ出す。……うるさい人達ばかりである。ここで言い合ったからと言っても、ユリエル姫と結婚する訳はないんですけれども。
私は怪訝な目で見つめながら、気付かれないように奥の方の席へと座る。
「――――――もう良いですよ? どうやらこのギルドではあなたの話題で持ち切りで、こんな所の方を見る余裕はなさそうだし」
「……そう、みたいですね」
と、そう言って彼女は自然に私の隣の席に座る。
座った相手は、話題の人物であるユリエル姫その人だった。
「……いつから、分かってました?」
「尾行がいつからしてたのかは分かりませんが、城を出る時に来てたのは分かりました」
「……凄いですね。隠密術には自信があったんですが」
ぺろり、と可愛らしく舌を出すユリエル姫。
「元重病者が隠密って……。世界は凄いですね」
「……病気患者は、暇なのです。他の人達よりも、十分時間があってね。身体を鍛えると言う意味もあったから、色々とやってみたの」
「けど、私の精霊魔法による探知能力には叶わなかったようですね」
私は手から赤い小さな妖精さんを出して、ユリエル姫に近付ける。
『炎』属性の探知魔法、フェアリーサーチ。大気に漂う火の妖精にお願いして、特定の人物の追跡及び追尾をする魔法。とは言っても、大気に漂うような野生の妖精は気まぐれですので遠く離れた者に長時間追跡させるのは無理ですけど。ちなみにお駄賃として私の魔力を少し分けてあげるのが、妖精さんとの取り決めです。
「……魔法! 綺麗だねー」
「で、私達、いえ朝比奈さんに何のようですか? 結婚するとか言っても、結婚する気はなかったんでしょ?」
私は目つきを鋭くして詰め寄る。本当に結婚するつもりがあったのならば、私なんかの後を追うよりも朝比奈さん本人の後を追った方が合理的だ。と言う事は、結婚する気は無かったと言う理由になる。
「……正解。でも、半分正解、かな」
「半分……?」
「……結婚する気がないのは、本当。今まで誰1人として私に本気の求婚をして来た人物は居ないの。必ず何か下種な考えがあって動いている。だから結婚はしたくないの。
けど、朝比奈さんとだったら一緒に居ても良いかなーって思ってるの」
「なるほど。では、私達の仲間になりたいと。そう言う事ですか?」
「……えぇ。あなたが一番話が早くて助かりそうだったから」
つまりは、結婚する気はないが、朝比奈さんとは一緒に居たい。それで仲間に入れて欲しいと朝比奈さんに言っても……多分、朝比奈さんは断るか困惑するかのどちらかでしょうね。姫ちゃんは多分、大反対。そこで私に相談を持ちかけた、と。
「……私は役に立つわ。剣術には自信があるの」
「でしょうね、街の噂でしたよ。病弱姫ユリエル以上に、剣聖ユリエルの名は」
剣聖ユリエル。
その美貌から放たれる、美しい剣技は見る者を魅了する美しい剣技。美しいだけでなく、その強さも素晴らしいと大絶賛。
まぁ、これは街の噂では無く、城の中の兵士達の会話から手に入れた情報ですが。
「良いでしょう。私の方から朝比奈さんに頼んでみます、出来うる限りは」
「……! ありがとう、紅葉さん!」
「その代わり、条件があります」
「……条件?」
私の言葉にポカン、とするユリエル姫。私は彼女を指差して、
「一緒に旅に出るのならば、もっと目立たない露出度の低い格好をお願いします」
と、胸元が大胆に見える服を着たユリエル姫にそう注意を促すのでした。