縁談話
第4王女、ユリエル・アトラシは呪いにおかされていたために、18歳になってもなお結婚相手が見つからなかった。これは王家や貴族の子女にしては婚期が遅れているらしい。
ユリエル・アトラシが呪いの解呪に成功したと知って、沢山の貴族などから婚約のお誘いが来た。18歳の女性はこの世界で言うと、行き遅れのおばさんみたいな目で世間では見られているのに、こうして沢山の結婚のお誘いが来るのがユリエルの美しさの凄さと言う事なのだろう。引く手数多の彼女だが、ユリエルはそのどれものお誘いを跳ね除けて、解呪をした僕との結婚を求めたのであった。
「……と言う訳で、今お城ではユリエル姫と朝比奈さんの結婚のお話で持ち切りです。結婚するのは秒待ちだと言われています」
「そんな話、僕は聞いた事がないんだけれども」
「コポーン……。王女と王様が連合としてます! 朝比奈さんとの結婚を推し進めています! だからもしも朝比奈さんが兵士に見つかったら、すぐに結婚話の事が来そうです!」
……うーん。どうしよう。けど、僕としてはまだまだ結婚してどこかに定住しようと言う気持ちはない。まだまだ色々な場所で異世界としての生活を満喫したいと思っている。
ユリエル姫との結婚、か。ともあれ依頼の完了はちゃんと貰わないと。
依頼完了の品は王家の指輪で、それはまだ姫も紅葉も貰ってはいないらしい。例えばこのまま帰ったとしてもギルドから僕を束縛されて、王家に逆戻り、最悪の場合は牢屋送りも考えないといけない。王家の依頼を無視して帰ったら、ギルドでも酷い扱いを受けるのは明白だ。入ったばかりのギルドでそんな目を受ける訳にもいかない。
少なくとも王家の指輪を貰う為に王様や女王様と会わないといけない。その際に縁談話を持ち掛けられるだろう。明確に断る理由がないと、その場の流れで縁談が進み、最悪の場合結婚となってしまうだろう。ユリエル姫と結婚したらこの城でユリエル姫と暮らす事になり、冒険などには出られなくなるらしい。
姫様との結婚は確かに勇者が出て来る物語上においては、往々にして良い物として扱われる。けれども僕は勇者じゃない。ただの余り物を押し付けられただけの転生者であり、まだまだこの世界の冒険を楽しみたいし、この世界がどう言う物なのかを知りたいと思う。まだまだどこかに定住すると言う気持ちはない。宿屋を一日で引き上げたのもあそこを拠点としてしまったら、このヒメハジメの街の遠くへ行けなくなってしまう。ギルド、『鋼鉄の城』に所属したのも色々なギルドを見て、『鋼鉄の城』だけが沢山の街に支部があって色々な場所に行けるから。
僕は英雄でも、豪傑でも、勇者でも、魔王でもない。ただのこの異世界を冒険したいと願うだけの冒険者。
だからこそ、残念ながらユリエル姫と結婚してこの王城に留まるよりも、色々な場所を見に行く事の方が魅力的に思えるのだ。
「……よし。姫、紅葉。僕はユリエル姫との縁談を断ろうと思う。2人もそれで良い?」
「私! 私はそれで良いよ!」
「朝比奈さんがそう言うのならば、私は従いますよ」
―――――――――さて、王様と女王様にどうやって縁談を断るか。まずはその方法を考える事にした僕だった。