ユリエル姫救済 後篇
薄い黄緑色の髪はさらさらと伸びていて下に行くほど少しずつ水色が混ざっていて、そんな髪を肩の下辺りにまで伸ばし、着ている服は肩が良く見える大胆なデザイン。紅色の服は胸元を強調するようにそこには布なんて何も無く、紐だけで止めているために胸の半分が良く見えるが、決してエロいと言う言葉は似合わない。ブーツは黒の少し長めのブーツ。気の強そうな赤い瞳と、薄くリップの塗ってある唇。
カッコよさとエロさが両立しながらも、明らかに美しいと思えるような姿。
そんな彼女の右目の上には20と言う黒で書かれた文字の上に黒で×印が書かれている、なんとも美しさを阻害する要因だと思える女性が居た。
「……もう1度言います。私が、アトラシ王家第4王女のユリエル・アトラシです」
ぺこり、と頭を下げる彼女。そんな清く美しい者のみが出す事の許された透き通るような声は、僕の頭に入って来る。あまりの美しさにしばし僕は呆然と、いや惚気てしまっていた。
「……あの、本当に聞いてますか? 光の魔法使い様?」
「あっ、いや……その……」
「すいません。どうやらあなた様の美しさに、私達の主が惚気てしまっていたようです」
僕が呆然としていると、紅葉がちゃんとフォローしてくれた。
「はぁ……良いんですけど……。それよりもちょっと兵士様達から聞いていた声よりも高いような……」
「やはり威厳があるほうが……」
「……解呪の魔法使い様はそれだけで偉いのに。まぁ、色々とあるんですね。では、早速……」
彼女はそう言いながら、ただでさえ胸元が開いたデザインの紅色の服を脱ぎ始めて……って!?
「どうして服を脱いでいるんですか!? 僕、そんな事まで頼んでないんですけれども!?」
そう言うと、ユリエル姫はきょとんとした感じで頭を捻る。
「……前までの解呪に来た魔法使いさん達は、服を脱いだ方が良いと……」
「いや、そんな事をしなくて良いですから! とりあえずソファーに座っていてください!」
「はぁ……」
そう言って脱ぐのを止めて座るユリエル姫。
はぁ……。なんと言うか、常識が欠如しきっていると言うか、少し頭が足りないと言うか……。
まぁ、良い。今からやるのは、神様から貰ったスキルの1つである【呪い耐性無効化】のスキル。
今まではその副産物である成長しやすいと言う事しか役に立たなかったけれども、本当のこのスキルを試す事になったのだ。このスキルの本来の特徴は僕の呪いの耐性を0にして、あらゆる呪いを吸収すると言う事。
僕達が考えているのは、まずこの【呪い耐性無効化】のスキルを使ってユリエル姫のかかっている呪いであるチャイルド・エターナルを僕に移して、その僕に移した呪いを紅葉が治すと言う事。
彼女だと呪いの解呪する際に体力が耐え切れなくなってダメなのかも知れませんけれども、僕ならば出来るかもしれないと思ったのだけれども、どうやら兵士の人から聞いたらもしも僕に呪いを移す事が出来たのならば、解呪する事も簡単だと言う。
どうやら僕の考えは案外間違ってはいなかったようである。
「良いですか、ユリエル姫様。今から光の魔法であなたの呪いを僕に移します。そしてそれからこの紅葉が僕の呪いを治します」
「……えっ、でもこの呪いは20歳以下だった場合、移ったとしても」
「大丈夫です。朝比奈さんの年齢は23歳、20歳以上なので問題はありませんよ?」
「……で、でも」
彼女はそう言って戸惑っているけれども、僕は頭を下げる。
「大丈夫です。僕に任せてください」
僕はそう言って、彼女の手を掴んで、彼女の呪いを受け入れた。
「……ッ!」
そして呪いは僕の手を伝って身体へと入って行き、呪いの嫌な感触が僕の身体を汚染していく。
痛み。苦しみ。嘆き。恨み。黒い負の感情は僕の身体を侵食していき、僕の身体を満たしていく。
(これが……呪い?)
―――――――――――何だ、これ。
負の感情が身体へと流れ込んできて、僕の身体を食い尽くそうとやって来る。
一秒ごとに僕の精神を壊してきて、一分ごとに僕の身体を破ってきて、一時ごとに僕の魂を破壊していく。
(こんなのに、10年以上も耐えて来たと言うのか)
僕だったらこんなのは耐え切れない。……いや、違う。これが呪い、けどこれでもまだ普通。なにせ、僕は23歳、チャイルド・エターナルが真の成果を発揮する20歳以下の人物ではないから、チャイルド・エターナルのこの苦しみは、チャイルド・エターナルにしたら些細な、本当にそこまでの物でも無いのだろう。
日本と言う戦争とは無縁な、平和な国で過ごしていたせいで、この呪いが凄い物に思えるが本当はそう言う物では無いのだろう。僕が大げさに感じているだけだ。
彼女はこれに耐えて来た。ならば僕も耐えなくては、この呪いを全て受け入れないといけない。
僕の身体は彼女の呪いをどんどんと受けて行き、僕はそれに耐えるために全力で歯を食いしばる。
僕は恨みをその身に受け入れる。
痛みを。苦しみを。嘆きを。そして恨みを。あるだけの負の感情を受け入れる。
そして呪いはどんどんと入って行き、遂にその量は増えていかなくなった。よし……これで彼女の余剰分は取ったと言う……。
僕はそのまま負荷に耐え切れずに、倒れた。
―――――――呪いってここまで身体に負荷のかかる物だと言う事を、その時僕は初めて知ったのであった。
呪いはやはり負の物だと言う事を出しておきました。
Episode2、王女編終了。