命名いたしましょう
「では、命名をお願いしてよろしいですか?」
「コポン! コポン!」
(命名……?)
どう言う事? と言うか、どう言う意味なんだろう?
「朝比奈さんには朝比奈さんと言う名前がありますでしょ? 私達もまだ名前がないので付けてくれると助かります」
「コポン! コポン!」
「確かに呼ぶ時にリッチやタヌキツネだと困るな。まずはリッチ、君の名前を考えよう」
「は、はい! お願いします!」
リッチ、と言うかリッチはリッチのままで十分呼びやすいんだけれども。……うーん、どんなのあるかな?
「そもそもリッチは前はどんな名前で呼ばれてたの?」
「えっと、『骨』、『死の魔道師』、『悪意の魔道師』……」
「――――――うん。もう良いや」
なんか聞いているだけでこっちが恥ずかしくなってくるんだけれども……。
「後、私は出来るならば『死』とか『骸』とかそう言うイメージがある名前をお願いします。その方が良いので……グフフフ……」
えっ? なに、その顔? まぁ、リッチって死んだ高位の魔法使い、もしくは王様がなる者らしいし、リッチもそう言った『死』とか『骸』とかいう言葉に思い入れがあるのだろうか? 自分の存在意義に繋がっているからね。
「えっとじゃあ……、『紅葉』、とかは?」
「モミジ、ですか?」
「あっ、うん。ほら、紅葉って落ちると言う意味で死とか骸とかのイメージがあるでしょ? それに綺麗だし。リッチに合ってるかなー、って」
いや、他にも色々と付けたい名前はいっぱいあったよ。
ルリとか、姫とか、それから未来とか……。けどどれも『死』や『骸』には関係ないから駄目かなー、って。
でも、紅葉。
綺麗な赤や黄色に染まると言う事と、枝から離れ落ちる様も綺麗だなーって。『死』や『骸』には直接は関係ないけど、木から落ちた部分をそれに結び付けてくれれば良いかなーと思ったんだけど……。
「駄目、かな?」
いつまでも反応がないから逆に困ってしまったので、こちらから聞いてみたんだけどリッチの反応は違っていた。
「い、いえいえ! 私、こんな良い名前を貰えるなんて思っても見なかったです! 紅葉、紅葉ですか。朝比奈さんからいただいたこの名前、大切にしますね♪」
と、ニコリと笑うリッチ。おぉ、可愛い。すっごく可愛い。やっぱり女の子は笑顔じゃないとね。名前を紹介するたびに、人々から嫌な感じされるのも可愛そうだし。名前が悪いと人々の反応も悪いしね。
生前、似たような目で見られていた友達が居たからね。
六浪……。五度目でやっと大学に合格した時は皆でパーティーで楽しめたな。
「さて、リッチはこれで「紅葉です」……そう、紅葉はこれで良いし、次はこっちのタヌキツネの番だ」
「コポン!」
タヌキツネは自分の番が来て喜んでいるのか、尻尾をふりふりと揺らす。ふさふさの尻尾が揺れてとっても良い。
「紅葉、タヌキツネから何かリクエストはないの? 僕、会話できないから」
さっきから紅葉はタヌキツネの言葉を理解している節が見られる。もしかしたらリッチだから動物の言葉が理解できるのかも知れない、もしくは僕が理解出来ないだけで僕に話しかけようとしているとかかも知れない。どちらにせよ今の僕にはタヌキツネの言葉を理解は出来ないし、紅葉から伝えてもらうしかない。
「えっと、タヌキツネはどちらかと言うと可愛いや綺麗な名前が良いと言っています」
「……おぅ、なかなか範囲が広くて難しいな」
危ない、危ない。今紅葉からの言葉を聞かなかったら、『ポココン』と言う安易な名前を付ける所だった。流石に擬音で考えただけのこの名前は気に入らないでしょうしな……。
「じゃあ、姫とかはどう?」
「コポン?」
本当だったら紅葉に付ける名前の候補とかに考えていたんだけど、タヌキツネにぴったりだ。
再び思い出す。一番下の妹、可愛い可愛い、朝比奈姫の事を。うんうん、可愛いしぴったりかも知れない。
「どうかな、気に入ってくれた?」
「コポン? ……コポン、コポコポン! コポコポン!」
尻尾を物凄く嬉しそうに揺らし、さらに鳴き声も先程よりも嬉しさを感じられる明るい声。どうやら気に行ってもらえたみたい。
「じゃあ、姫、紅葉。これからよろしく!」
「コポン! コポコポン!」
「はい。よろしくお願いします、朝比奈さん」
笑いあう僕達。
勿論、紅葉が心配なので握手は交わさなかった。
【朝比奈揺 Lv.1 種族;人間 職業;無職 HP;160/160 MP;60/60
姫 Lv.1 種族;獣人(狸族と狐族のハーフ) 職業;なし HP;100/100 MP;200/200
紅葉 Lv.1 種族;リッチ 職業;魔法使い HP;50/50 MP;3000/3000】
やっぱり動物は職がなくても良いんだね。分かってたけど。