ユリエル姫救済 前篇
「ふぅ……。なんとかユリエル姫の所へ向かう事が出来ましたな」
「コポン!」
と、僕と姫、それから紅葉は使いの兵士に通された部屋、ユリエル姫の部屋の前に作られた接待室に通された。
ユリエル姫の部屋は元は執務室となっていた部屋であり、机や椅子などを片付けて彼女のベッドや家具を運び込み、彼女の自室としたようだ。そしてここは元は執務室に通す者を待たせるための接待室に僕達は通されたのだ。何故、執務室をユリエル姫の部屋にしたかと言うと、僕が考えるにそれはきっと彼女の呪いを解呪する者の部屋を出来る限りユリエル姫の近くに用意出来るようにするためである。
言い方が悪かった。端的に言えば、ユリエル姫が出来うる限り外に出る機会を、もっと言えば他人の視線が触れないようにするためだと考えられる。ユリエル姫は呪いに侵されており、それはこの国の国民、この城で働く兵士は全員知っており、皆が呪いに侵されてしまったユリエル姫を見る度に彼女の事を哀れそうな目で見つめる。そしてユリエル姫と彼女の両親であるコウキ王様とクイン女王は、そんな哀れむそうな目で見つめて欲しくないと思う。執務室と接待室の間ならば扉一枚で接しているために、他の人達にあまり見られる機会がないと言うためにこの部屋にしたんだろう。
「まぁ、要するにあまり哀れに思われたくないって言う事だな。姫様や王様達も考えているんですね。色々と」
「コポン?」
まぁ、姫は良く分かっていないみたいだな。難しかったか?
「要するに移動距離が短い、兵士に見られない、哀れに見られない。OK?」
「コポン!」
分かったとでも言いたげに9本の尻尾を揺らす姫。本当に分かったんだろうか?
「…………………………はぁ~」
と、重たげな溜め息を吐く紅葉。
「まさかあそこまで質が落ちていたとは……。一国の姫とは言え、第4王女だとあんなにも質が落ちた人間ばかりが出て来る物なんでしょうか……。いや、違いますね。あれが普通……。
私が、必死になって朝比奈さんに魔法を、1時間で構成魔法の基本、魔力による物質移動を覚えて貰って、その後に朝比奈さんの言葉を頼りに即席の花火を作る策を考えたと言うのに……。これだったら普通に通らせて貰えば良かったのに……」
ガーン、ととても落ち込んでしまっている紅葉。どうやらそこまで策を巡らせなくても解決できる問題だったのが落ち込んでいる理由らしい。
「あれだったら私がもっと大規模な魔法を使って、力の差を見せつけて信じて貰えば……。後で朝比奈さんがやるからこそ、花火が地味に思えない程度の魔法で収めたと言うのに。
はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
どれだけ溜め息を出せば良いか分からないけれども、紅葉はもっと難しいからこそやっていたのだろう。
そう思ってると、扉が開いて1人の女性が出て来た。
「どうやらユリエル姫の、ご登場でしょうか?」
「……はい。そうです」
透き通るような声が扉の奥から聞こえて来て、扉を開けて出て来た彼女を見て僕は自分の考えが間違っていた事に気付いた。
「……こんにちは。私がアトラシ王家第4王女、ユリエル・アトラシです」
彼女は別に哀れに思われて、ここの部屋をあてがわれたのではない。
――――――――――彼女は他を圧倒するまでに、綺麗すぎてしまったのだ。