神、憶測する 後編
「何を言っているのか、さっぱり分からないな。日向ラファエル」
と、彼、天見アバユリは臆する事なくそう言った。
「レベル10程度しかない人間を、あの『鋼の城』と言う善良的なギルドがそれをやるだろうか。世界はお前のために動いているんじゃない、その世界に生きる者たちの手で動かされているんだ」
「くっ……!」
苦虫を噛んだような目でアバユリを見つめるラファエル。
「国の三大条件。それはそこに住まう人民、人民が暮らす国土、最後にその者達が守るべき法だ。ギルドとは大きかれ小さかれ、そこは1つの国だ。だからこそ、色々な目的を持った奴がいる。
正義も悪も、老いも幼いも、男も女も、全て国としてそこにはある。
そこに入った彼の処分を、ただの参考程度に聞いてくる他国の者である私が、『彼をDにしろ』、『Cにしろ』と言っても聞き届けてくれるとは思えない。
よって、お前の朝比奈揺に対するさらなる試練は鼻から私には関係ないのだ」
例え、アバユリがギルドの神であっても、絶大的な力を持つ訳ではない。せいぜい、彼らからは便利だからと重宝されているだけの、ただの部品に過ぎない存在なのだろう。
そんな部品が言った意見を聞き届けてくれるかどうかは、それは分からない話。その責任をアバユリに押し付けようとするラファエルの行動は、鼻から筋違いなのだ。
「だいたい、個人に肩入れしないのが信条のラファエルが、朝比奈揺のDランク、Cランクへ無理やりにでも推挙させようとする意志は、個人的な肩入れに思えるぞ」
「……っ!」
まぁ、それもしょうがないか、とアバユリは思っていた。
最近、ラファエルの中でもいたぶり甲斐のある転生者が2名、ラファエルの試練をやらなくなったと聞いた。せっかく、お気に入りとして試練を与えてるのに、しなくなった2人に対するストレスをどこかにぶつけたかっただけなのだろう。
「……それも……そうだな。悪い、忘れてくれ」
と、ラファエルは言う。
「あぁ、少し主神としての立場を忘れてガス抜きでもせんと、破裂するだろうよ。ちなみに最近、理想郷に出来た温泉旅館が、かなりストレス解消に良いと聞いたぞ」
と、アバユリはそう言って、机の引出しを開けて、前に貰っておいたチラシを見せる。
【『理想郷温泉 ミランダ』! 温泉の神、天見ミランダの温泉旅館の新装開店! このたびはどうか一度寄って言ってくださいよ! 温泉の神、天見ミランダより】と書かれた、いかにもな宣伝のチラシ。
「これ、アバユリのブラコン妹が経営してる旅館じゃないですか。身内びいきと言う奴ですかな?」
「身内びいきはせんよ、私は。素直に自分から行って、良かったから同僚に勧めているだけだ」
「あっそ。まぁ、アバユリがそう言うのならば行ってみる価値はありかな」
そう言って、貰ったチラシを丁寧に折り、スーツのポケットに入れるラファエル。
「あっ、そうだ。アバユリ。今度、一緒に温泉行こうよ。この旅館で良いからさ」
「あぁ、考えておくとするよ」
「絶対だからな、絶対だぞ!」
「はいはい……。ラファエルは心配性だな、全く。
じゃあ、ちょっと玄関ででも待っててくれ。この前、主神じゃなくなった転送の神が恨みと称して自らの分身を異世界に送っていてな。さっき、話に出てた神が居る異世界がようやく居場所を特定した所なんだよ。どうやら朝比奈揺の居る異世界に飛ばされてたみたいでな。異世界のどこに飛んだかを、アマテラスさんに報告しないと」
と、彼はそう言い、パソコンめがけて仕事を始める。
「そう言うのは、裏方の神である月裏さんや管理の神達の仕事だと思うけど……。まぁ、アバユリらしいし、良いと思うよ。じゃあ、終わるまで待ってるから、なるべく速くな」
「おぅ」
ラファエルはそう言って、この異世界の様子を管理する建物の玄関へと向かっていった。
「さて、と。仕事をちゃっちゃと終わらせましょうかね」
天見アバユリ。
ギルドの神であり、いつもガスマスクを付けている変人でもある彼は、神々全体から『信頼できる男』としての評価を獲得しており、何度も【神様が選ぶ懐の大きい神第1位】に輝く、凄くしっかりとした神なのである。
天見さん、マジイケメン……。
次回から本編、戻ります。