夢の世界よ、さようなら
「くそう……この記憶は不正解だったようですね、キャルルーン! ならば、別の記憶を……キャルルーン!」
そう言いつつ、オペラの姿をしたバグはまたしても白い煙を出して青い水晶を出す。黒い煙と姿を変えたバグは、別の記憶の水晶を手に入れるために水晶を探っていた。
「そうはさせませんよ。もう記憶の水晶は渡せません」
夢姫がそう言いつつ、黒い煙に炎を放つ。放たれた炎は黒い煙を燃やして行って、黒い煙は悲鳴のような声をあげてそのまま消えて行った。
「ふぅー……姫ちゃんの記憶の中の水晶の中からナギサ・クジョウ、ナナミ・クジョウ、ポイズンリップの3名の水晶を記憶の奥底へと隠しておいて正解でした。あの3人の水晶の姿を奪った場合、大変な事になっていましたから」
「まぁ、場合によってはヴェルモットクレイよりも大変な事態になっていたからな」
時間を10秒まで停止する事が可能なナギサ・クジョウ、秒速50kmと言う驚異の身体能力を持つナナミ・クジョウ。そして最後は霊魂の力を操る【死神殺しの死神】、ポイズンリップ。どれも姿を奪われた場合、大変な結果になってしまう奴らである。そいつらを回収出来なかったら、悪い結果になってしまうだろう。
「さて、と。これにてバグは完全消滅と言った所ですね。また取られると嫌なので、姫ちゃんと完全に融合させておきましょう」
そう言って、夢姫は玉藻前の力が宿った水晶を手に取って、地面に押し付ける。地面に押し付けると共に、水晶は地面に融合していって完全に消えて行った。そして夢姫とホッと一息吐いた時、夢姫の身体に異変が起こった。夢姫の身長が少し伸びて、髪も長く伸びて行く。そしてあそこも少し大きくなっていた。
「あら……なんだか服がきついですね」
「身長が伸びたから、じゃないかな?」
「いや……やっぱり胸が大きくなったのが原因ですね」
ウフフ……と笑う夢姫。その度に、ただでさえ胸が合っていなかったのに、さらに揺れる上玉。
「恐らくは玉藻前の力を手に入れる事によって、姫ちゃんの容姿に変化が生じたのでしょう。私の容姿は姫ちゃんの容姿の2年後ですから」
「そう……なのか?」
「狐は女をたぶらかす者ですから。朝比奈さんも気を付けてくださいね。まぁ、私としては姫ちゃんと朝比奈さんの組み合わせを断然押しますけれども」
……あまり深く効かない方が良さそうだ。
「さて、そろそろ朝になりますね。もうお別れの時間です」
夢姫がそう言うと共に、僕の身体がだんだんと薄くなっていく。もしかして……目が覚めようとしているから、僕の身体がこの世界から離れて行っていると言う事?
「ゆ、夢姫……!」
「朝比奈さん。姫ちゃんの事、よろしくお願いします。そして、どうかちょっとで良いので、姫ちゃんの頭の中に居る私の事も忘れないでくださいね。じゃないとまた、こっちに引きずり込んじゃいますから」
ウフフ……と上品に笑いつつ、夢姫が手を振る。そして僕の身体は徐々に消えて行き、夢姫の姿も見えなくなっていく。
「じゃあね、朝比奈さん。また夢の世界で」
―――――――そして、僕の身体は完全にその世界から消えた。