想い出のボス魔物(2)
目の前の丘の上に立っているのは、かなり前に戦った事があるモンスターだった。
頭に狐耳が生えている狐のような面を被った、背中に鏡を取り付けられている白い身体のモンスター。両手と両足の爪は無駄に長く伸びており、その身体には一切の傷がない光沢の身体。首から勾玉をかけており、身体からは9本の金色の尻尾が生えており、その瞳は真っ直ぐにこちらへと向いている。
「もしかしてあれは、ヴェルモットクレイ……?」
「あれがバグです。玉藻前の力とヴェルモットクレイの姿を盗んで、逃げてしまったバグでございます」
ガゥ、っとヴェルモットクレイ……いや、バグは9本の金色の尻尾のそれぞれに武器を持っている。それぞれ種類は違えど、9本の尻尾には古い石で出来た石剣を持っている。
「ガゥッ!」
バグは9本の尻尾を振るい、僕と夢姫に向かって振るう。僕と夢姫が逃げようとしたら、バグは狐面の口の部分が開いて炎の球が放たれる。放たれた炎の球は、黄金色の稲穂に当たって燃え上がる。
「ガウッ、ガウガウッ!」
「ともかく、このままだとバグの天下ですし、それならばこれで!」
そう言って夢姫は炎を作り出す。その炎はどんどん青色になって行って、青色の炎はバグに向かって放たれた。
「ま、待て! そいつがあの……ヴェルモットクレイならば魔法は!」
バグが持ち出したヴェルモットクレイは攻撃と魔法が効かないモンスターであり、背中の傷以外ダメージが効かないと言うモンスターなのだ。炎の魔法なんて効かないのに!
「私も知っています。ですから、別の手段ですよ」
水色の炎はバグではなく、バグの周囲を囲むようにして燃え上がる。そして、水色の炎は固まって行って、バグは周囲を氷に囲まれた。
「熱を奪う低温度の炎。これによって、凍らせる事が出来ます。
言ったでしょ? 私は姫ちゃんよりも2年年上なんですよ? 彼女よりかは、沢山の戦闘方法があるんですよ」
「そうみたい……だな」
確かに夢姫は、今の姫よりかは高度な戦闘技術を使っている。と言うか、こいつを倒した時は確かアースソナーを使ったんだっけ? 今では良い思い出みたいなものだ。
「使ってみるか……久しぶりに」
僕はそう思いながら、アースソナーを使う。こんな夢の世界と言う、不安定な所で使えるかどうかは正直半信半疑だったが、アースソナーは無事発動する事が出来た。
地面に伝わるようにして、あのヴェルモットクレイの姿をしたバグの情報が頭の中に入って来る。あの身体全体には攻撃と魔法に対しての耐性が付けられており、やっぱりあの姿の背中には傷が付けられている。そしてこの前戦った時よりも強くて、その傷を覆うようにして9本の金色の尻尾が防いでしまっている。
(……体力も高いし、9本の金色の尻尾の邪魔が大きい)
なにせ、あの9本の金色の尻尾にも攻撃と魔法に対しての耐性がある。だからあの9本の尻尾を切り落して、背中の傷を狙う事も出来そうにない。
「夢姫、あの9本の金色の尻尾をなんとか出来ない?」
「攻撃や魔法は効果なし。麻痺や毒は効果はあるでしょうが使えませんし、多分あの炎で凍らせるのも出来ないでしょうし」
「それでも……」と夢姫は言う。そしてこっちを見てニコリと笑い返す。
「――――――――なんとかしましょう。そして、あなたが止めを刺してください。私も姫ちゃんも、あなたが止めを刺す姿は好きなので」
そして夢姫は笑いながら、姫と同じように札を構えていた。
【バグ】
玉藻前の力とヴェルモットクレイの姿を盗み出した、姫の夢の世界のウイルス。豆羽ミラキジェスによって偶然姫の夢の世界に入って来た。
【夢姫】
姫より技術力は2年上。姫も凍らせる炎は作れますが、使いこなせてはいません。そこが2年の差と言う物です。