リッチの本質
「私の問題……ですか?」
「そう。あなたはそのために、ここに呼ばれたような物だから」
そう言って、メモリアルさんは1枚の書類を取り出す。そしてその内容を読み上げて行く。
「リッチとして生活しやすいように防腐機能の各種が施されていますね。臭さ防止、身体の崩壊を防ぎつつ、なおかつ生存者を襲わないなどリッチとして転生者をサポート出来ない機能はあらかた切除されていますね。今のあなたはリッチとして、朝比奈さんと一緒に戦うために作り変えてると言っても、過言ではありませんね」
「……それは悪い事ではないのでは?」
「そうね。今まではそれで良かったわ。それで……何も問題は無かった」
妙に歯切れが悪い言い方ですね。まるで他に何かあるみたいな、そんな含みのある言い方です。
「けど今まで以上の力を出すためには、リッチとしての本質を身に宿さないといけない」
「……有無を言わさず、ここに連れて来られた気がするんですが」
「ここにやって来る。それがあなたの運命だったの。
今のあなただと、朝比奈さん達の力にはなれないわ。魔法だけでは、この戦争は乗り越えられない。いつだって、戦争には切り札が必要なの」
「切り札……」
戦争。それは【魔王軍】、【勇者軍】、そして【教会軍】の三すくみが戦うあの戦争の事、なのでしょうか?
「戦争の勝者と言うのはいつだって、斬新な物を手に入れた方が勝つのよ。
相手よりも凄い武器、相手よりも凄い戦略、相手よりも凄い人員。天に任せるだけで勝てるのならば、楽だったんだけれどもね」
「そうはいかないのよ」とメモリアルさんは笑っていた。
「……だから、私に、そのための切り札をくれると言う事ですか?」
そう聞くと、彼女は頭を振って頷く。
「ぶっちゃけ、今のあなたには危機感はないわね。全属性の魔法を使いこなす、それは本当に便利だけれども、有利と言えるかどうかは微妙な所よ。
万能は確かに万能だけれども、ただそれだけ。一点特化には勝てない。だから、あなたには切り札をあげましょう。しかし、それには―――――――」
「過去の者との融合を果たし、そしてその力を受け入れる事により、新たな力を目覚めさせる。自分の心の底に潜めし奥儀を、忘れてしまった前世からの縁を――――――あなたが思い出した時、天から授かりし魔王の炎が姿を……」
「―――――――現さないから」
しょぼんと、再び座るミカゲさん。……なんだかこっちが可哀想になってくるんですが、まぁ、聞いていてもためになる事は言っていないので、無視しておきましょう。
「―――――ともかく。あなたがリッチとして生きる道を選んだ時、あなたの真の力を取り戻す。その辺りを理解してくれると助かるわ。だけれども……」
「それ以上は言わなくて大丈夫です。理解してます」
使い魔として不利益になるから取られた機能。それを取り戻した私は、多分、長い旅は出来なくなる。
姫ちゃんのはただ単に心の問題であり、抗う事が出来る問題。
そして、私のは―――――――それ以前の問題。抗う事が出来ない、体質の問題。
「――――――もっともっと、長い目で皆と行きたかったんですが、仕方がありません。
『そうしないと、多分皆が戦争で死ぬ』。だからこそ、私を呼んだんでしょ?」
「そうね。選択肢は2つに1つだったわ。
戦争によって全員まとめて死ぬか、あなただけが短く生きて他の皆が長く生きるか」
「そう言ってくれれば、簡単な問題じゃないですか」
――――――私1人が死ねば、皆が長く生きられる。それならば、私1人が死ねば良い問題じゃないですか。
そして、私はリッチとしての本質を、メモリアルさんから貰って、あの世界に帰還する。少し遅れるみたいですが、戦争には間にあうみたいです。
待っててください、今戻りますから。朝比奈さん、姫ちゃん、ユリーさん、そして月裏さん。
Episode9.戦争編前編、終了。
Episode10.戦争編後編に続く。