豆羽ミラキジェスの仕事
「調教……? それに家畜って……」
私は驚いていた。あの、私達を心優しく接してくれていた豆羽ミラキジェスさんが、私達の事をそんな風に思っていたなんて……。
「……まぁ、言葉は悪いけれども事実、そうなのよ。あなたも知っているでしょ、九尾の狐が転生者を殺した事は知っているよね?」
「一応……」
あれは、衝撃的な光景だった。九尾の狐は自分を選んだ転生者を殺して、そのままこちらに強制的に帰還されてきた。あれに関しては、哀れだとしか言いようが無いけれども……。
「あれは……調整が間に合わなかったのよ。だから、あんなことが起きてしまった」
「……そう。あれは悲劇に近い事象。全ては、時代が我に追いついて無かったと言う事なのだよ」
そう言いながら、部屋の隅から立ち上がった浅尾ミカゲ。その顔はとても嬉しそうだった。自分の語る事が本当に楽しそうな顔をして、そのまま彼女は自身が考えたであろう内容を得意げに話し出す。その後、凄くニコヤカな笑みを浮かべた戦恋メモリアルが浅尾ミカゲに近寄って、そのまま座らせる。その時、座った浅尾ミカゲの顔は先程と同じように、いや、さっき以上に暗い顔をしていた。
「……さて、話を続けましょう。飼育の神様、豆羽ミラキジェスとは、ただモンスターを育てるだけの神様ではございません。モンスターを使い魔にする、それが飼育の神様の使命なんだよね。
モンスターには勿論、使い魔に向いていないほど凶暴なモンスターや、旅に連れて行く事さえ難しいモンスターも居る。それを改善する。
調教によってモンスターの性格や行動を矯正して、改造手術によって体質や特性を変質させる。それが豆羽ミラキジェスと言う神様」
「九尾の狐は、その調教と改造手術間に合わなかった」と、戦恋メモリアルはそう言ってくれていた。
「勿論、あくまでも生活に支障が出る物を排除すると言うだけであり、全部を変質させている訳ではありません。
……姫さんの九字の印のいくつかが、予め分離されていた事もその一つ。彼女の九字の印を揃えている事は、異世界の旅に向いていなさすぎる。使い魔に向いていなかったから、分離した。ただそれだけの話ですよ。
そして、紅葉さん。あなたもそれは行われている」
「私……も?」
「そう。
日を浴びただけで、腐敗してしまう身体。あまりにも脆すぎる身体。他にもリッチと言う物は、あまりにも脆すぎた。だからこそ、あなたは知らない内に豆羽ミラキジェスに改造されてしまっていた」
使い魔として、扱いやすいように。
使い魔として、生活しやすいように。
私が知らない内に、私の身体は豆羽ミラキジェスによって、使い魔として良いようにされていたそうだ。
「だから、あなたは回復魔法を使っても大丈夫だったし、日を浴びたからといって、異変が起きたりはしてないでしょ?」
「……」
確かにその通りだった。自分にはそのような異変が無かった。本来であれば、リッチであれば……起こるはずなのに。
「あなたが無事だったのは、決して偶然じゃなかったの。それは豆羽ミラキジェスによって、そうされていたの。姫も同じように、使い魔として扱いやすいように改造されているわ。
そして、あなたと姫は同じように改造されているけれども、そこには大きな差がある。
彼女はかつての自分を取り戻そうとしている。しかし、今までの旅の想い出によって、元に戻っても大丈夫。実際、彼女の問題はあの玉藻前と団三郎狸の重すぎる呪いに耐えきれるかどうかと言う話だし」
「呪い……ですか」
なんだか穏やかじゃないです……。
「8個の印が彼女の最後の印、【前】の印を呼び起こす。そして彼女は玉藻前と団三郎狐の力と、彼らが持っていた呪いを背負う。対象人物の両親の能力を得る。それが【前】の印。能力だけ貰うだけではないの」
「……ちなみに2人の呪いって、どれくらいの強さですか?」
「さぁ? そんな事を私なんかの口では語れません。
……さて、問題なのはあなた、紅葉さんの方です」
【豆羽ミラキジェス】
飼育の神様の主神。モンスター使い魔化計画は彼が立案して、実行。
モンスターが寝ている内に日常生活に必要ない物は、処分しています。
【姫】
本来であれば、あの九尾の狐と同じように朝比奈を食べているくらい凶暴だったんですが、豆羽ミラキジェスの手によって今の可愛らしい性格に落ち着きました。