【ナギサ・クジョウ】との対決(3)
スミガタケを我武者羅に逃げる僕と姫。ご丁寧な事にナギサ・クジョウは紅葉、ユリー、月裏さんの3人の手足をセメントで動けない状態にしていた。そしてゆっくりと歩きつつ、こっちへと向かって来ていた。走らないのは余裕の表れだろうか?
「……私には勝てない。ナナミ・クジョウの死体と1つになった今の私は、ナナミ・クジョウの【奥の手】、魔法を使える。
絶望させるために、一つ教えておきましょう。彼女の魔法は、時間魔法。時を操る魔法で、はっきり言ってあなたがたがどんな手を取ったとしても無駄」
それを木の後ろで隠れて聞きながら、僕と姫の2人はかなり絶望していた。
ナナミ・クジョウの身体能力、そして時間を操る魔法。初め、それが嘘だと思ったかもしれない。けれども、僕達はあの、滅びた世界のナギサ・クジョウを知っている。
滅びた世界の、ナギサ・クジョウの能力は、時を超えて特定の人物を持ってくる能力。恐らく、あれはナギサの《盗む》能力と、彼女の時を操作する能力が複雑に絡み合った結果、生まれた能力なのだろう。そして今、彼女はそこまでの領域には達しては居ないけれども、時間を操る能力と物凄い身体能力を持つナナミ・クジョウの身体を持っている。
「時を止めて、さらに秒速50kmを出すほどの身体能力の持ち主……。物凄い化物だったんだな、ナナミ・クジョウと言う獣人は」
そしてその化け物は今、ナギサ・クジョウとして使われていると言う事か。
「姫もそう思う?」
「うん……。でも、勝たないと……。勝たないと印は手に入らない」
「……そう、だな」
【在】の印は彼女が持っており、彼女を気絶させるか、降参させるかしないと、僕達はそれを手に入れる事は出来ないんだから。
「……獣人は身体能力は高い傾向にあるんですが、その代わり魔力は低かった。彼女は時間を操ると言っても、二秒しか時間を操る事が出来なかった。でも、私の魔力ならば10秒は止められる。
そして残るは、5秒。私は後、5秒ならば止められます」
そう言って、ゆっくりとこっちへと向かって、歩き出すナギサ・クジョウ。
……絶望的だ。あっちの身体能力は僕と姫の2人を遥かに凌駕しているし、遠距離攻撃も避けられるだろう。万が一、トラップを使ってもナギサならば時間を止めて避けられる。そして、避けてる間にこちらに距離を詰められて、終焉を迎えるだろう。
策はない。もう……終わりだ。
(負けを認めるしか……無いのかな?)
もう策も無い。どんな手段を取れば良いかも分からない。手詰まり、それしか思い当たらない。
「……」
しかし、姫が――――――そんなナギサ・クジョウの前に、姫が前に飛び出した。
「……良い覚悟ですね。けれども、そこに結果が伴なわないといけないです」
そしてナギサ・クジョウは両方の拳にセメントのグローブを付けて、そのまま姫の方に向かい、姫は札を剣のように形作って、それに炎を纏わせてぶつける。
「……むむむっ!」
姫がそう言いながら力を込めて、ナギサ・クジョウのグローブにぶつけていた所で、ナギサ・クジョウが目を瞑って
「……参りました」
と、あっさりと、いかにもあっさりと負けを認めるのでした。