試練開始
その日の午後。
スミガタケにて僕達は試練のために向かい合っていた。
「……まぁ、試練はそこまで長引かせなくても良い。気楽に、そう気楽にやりましょう」
ナギサ・カワサキはそう言いつつ、欠伸をしながらこちらを見ている。
「……対決の勝敗は、気絶するか。それか、負けを認めるか。それだけ。【ナギサ・クジョウ】が勝つか、朝比奈さん達が勝つか。それだけで、後はどうなろうとも構わない。それだけですよ」
「……なんともまぁ、アイスバーンさんと違って雑な説明ですね」
「本当にざっくりとした説明だな」
紅葉と僕は、ナギサの本当にざっくりとした説明を聞きながらそう思っていた。まぁ、アイスバーンさんと同じように長々とした丁寧な説明を貰うと、アイスバーンさんを思い出してしまって嫌になるんだけれども。
「勝てば貰える? 何か、他の物をかけたりとかしない? 試練の追加とか、しない?」
「……神様からやれと言われましたので、私はやってるだけです。それ以上は頼まれていません」
「だからやらない」と、ナギサはそう言う。
「……まぁ、全精力を傾けるのも馬鹿らしいと言えば、馬鹿らしいですし。2人くらいで様子見とかが無難かと?」
「い、言われなくても!」
「やる!」
月裏さんが氷の翼を纏って、そして姫が札で作った剣に火炎を纏わせて、ナギサさんに向かって行く。この数日の間に得た技術。姫が得たのは札で形を作ってそれに炎を纏わせる。これによって、近接攻撃も容易となった。そして月裏さんは氷を氷柱のようにして攻撃力を上げて、空気抵抗を下げた。他の3人もだが、僕達は試練を受けると決める前より、確実に成長していた。
「……力量差を見せつけましょう」
と、そう言って、一瞬視界がぶれる。そして次の瞬間には月裏さんと姫が木にぶつかっていた。
「痛っ~! な、何!?」
「い、いつの間に……」
全く見えなかった。どこから攻撃したのか分からなくなるくらい、ナギサの行動は見えなかった。
「……早く負けを認めてください。私達も何度も相手には出来ない。そう、ほんの数秒くらいしか相手に出来そうにない」
「じゃあ、とっておきの魔法で!」
紅葉がそう言って、目の前の空間に呪文の詠唱陣を作り出す。そして、
「――――――――火炎よ、舞え!」
紅葉がそう言って、作り出した魔法陣。あれはおとりである。いや、別にあれが見かけ倒しと言う事でも無くて、ちゃんと発動はする。けれども本命は木の中に隠しておいた紅葉の魔法陣。設置型の魔法陣、そこから目に見えない速度で魔法を発動させて、ナギサさんを気絶させる。それもまた紅葉の成長によって僕達が考えた作戦の1つである。
目の前の空間の魔法陣の炎はただ音を大きく出して、相手の注意を引きつける役割も担っていた。そして、ナギサさんは倒れる―――――――――はずだった。しかし、ナギサさんは一瞬また視界が揺らいだかと思うと、無傷の状態で立っていた。
「魔法は発動したはず……」
「……えぇ。かなり危なかった。先程の2人の倍の秒数を使わなければなりませんでした。でもまぁ、もう少し使える」
そして、今度は僕が聖剣を持って、ナギサに向かう。そして振るう。それをナギサが《盗む》ために、集中している時に大剣に持ち替えて、そのまま斬りかかる。集中している時は流石に無理だろう。そして後ろからユリーが斬りかかっているし、今度こそ!
しかし、またしても僕達はいつの間にか地面に叩き落とされていた。
【朝比奈揺 Lv.32 種族;人間 職業;神殺しの二剣流 HP;760/790 MP;630/630 加護;ルルリエルの加護
姫 Lv.30 種族;獣人(狸族と狐族のハーフ) 職業;禁呪術師 HP;540/590 MP;800/880
△【札形成術】を手に入れました。
紅葉 Lv.30 種族;リッチ 職業;希望の魔法使い HP;110/145 MP;8600/8700
△【設置魔術】を手に入れました。
ユリエル・アトラシ Lv.30 種族;人間 職業;二刀流 HP;540/590 MP;340/340
月裏 Lv.26 種族;変化の不死鳥 職業;拳士 Hp;310/340 MP;780/810】
ステータス的にも僕達は前よりも成長している。けれども、それでも全く叶わないほどに、ナギサは強かった。
「……これこそ、【ナギサ・クジョウ】の真のチームプレイ。
さて、もっと面白い物をお見せしましょう。私が何のモンスターかと言う事を」