スミガタケの戦い(1)
墨で塗りたくられた黒い木が並ぶ森林、スミガタケ。そんな場所にセグウェイが投げた白い煙だけが辺りを包み込んでいた。
「……目くらましですか」
と、そうとだけ言って私は白い煙から離れて、近くの木に隠れる。
そして森に吹き込む風が白い煙を吹き飛ばして、吹き飛ばしたそこにはセグウェイの姿はなかった。
「……隠れましたか」
まぁ、何も可笑しな事では無い。セグウェイの戦い方は銃を使った暗殺。わざわざ姿を見せると言う事自体があり得ない考えなのかも知れない。
「この戦いに意味なんてあるんでしょうか?」
スミガタケの森に、いまいましいあいつの声が響いてくる。
「こんな事をしているよりかは、【魔王軍】のために働いている方がよっぽど良いと思うんですがね」
「……」
私は前にこの場所で《盗んで》形を覚えていた、スナイパーライフルをセメントで作り上げる。そしてスコープを覗き込む。私のセメントで再現されたスナイパーライフルは、セメントとは思えないくらい鮮明に機能を使いこなしている。
「……良し」
先程声のした方向をスコープで覗き込んで、私はセグウェイを探す。
(……セメントにしては、視界は良好。うむ、能力は何も問題はない。やっぱり武器でないから、ヒカロウとの戦いは苦戦したんでしょうね)
物を《盗んで》、形をセメントで《作り出す》。機能まで再現するこの能力だが、やっぱり相性が悪いのはヒカロウだけなんでしょうね、と思いつつ、慌ててナギサは顔を大きく振る。
「……今はこの行為に集中する。ただそれだけに集中しよう」
そう言って、私はスコープを覗き込む。相も変わらずセグウェイの姿はどこにも見えない。
バキュン! と、銃弾がこちらへと向かって来る。私はそれを慌てて移動して避ける。私の居た場所に撃たれる銃弾。
「……避けられてしまったか。ならば、少し距離を取らせて貰いましょう」
そう言いって聞こえるセグウェイの声と、彼女が移動した音。
(……暗殺はやはり、あっちの方が上ですか)
あっちの方が暗殺が上で、しかも銃の技術に関してもセグウェイの方が上だと考えられる。ならば、暗殺ではなくて接近戦に持ち込むべきなのでしょう。
(イスカンダル邸にて、少し使ってしまったし、あんまり魔力に関しても回復していないですし。ならば私は、相手の距離を近付くしかないですね)
私はそう思いつつ、身を屈めてセグウェイを探す。
……スナイパーライフルはもう使えないのかもしれない。だから、私はスナイパーライフルを投げ捨てて、代わりにセメントにて剣を作る。その剣にて草を斬りつつ、行動する。
「……しかし、どこに居るんだか?」
けれども、確実にセグウェイはここで抹殺する。
……ナナミ・クジョウが殺された、この森にて。
「……少し時間を取り過ぎですかね。まぁ、少し距離を取りつつ、あなたを抹殺させていただきます」
セグウェイの声がそう聞こえて来て、向こうの方で彼女の持つスナイパーライフルのスコープの光が見えていた気がした。
「……!」
見つけた、あそこです!
「……よし、今度こそ捕まえますよ。セグウェイ!」
「……愚かですね。感情に任しても何も生まないと言うのに」