セグウェイは心を知らない
セグウェイにとって、心や感情といった物は重みでしかない。
それは何故か。それは同じように神から送り込まれたアイスローカル・バーンアトラシ、通称アイスバーンさんやナギサ・カワサキの2人と、セグウェイはまったく構造が、制作過程が違うからである。
アイスバーンさんやナギサ・カワサキは『人間』と『モンスター』を神の力で疑似的に融合する事によって生まれたモンスターだ。対するセグウェイはいくつもの銃と言う『物』を合体させて生まれたモンスターだ。
アイスバーンさんやナギサ・カワサキは生前の人間の記憶によって、感情をある程度理解して動ける。モンスターと言っても、彼女達はほとんど人間に近い。しかしセグウェイは元が銃なために、感情という物が理解出来ない。
何か心が少し重くなる感覚やら、軽くなる感覚やらが最初のうちは存在したけれども、銃は武器だ。そんな心などと言う見えない物に左右されててはいけないと、自らそれを感じなくなるように努めた。その甲斐あって、セグウェイはどんな事にも心が動かない、そんなモンスターへと変わった。
距離を取るのは、自身の破壊を防ぐ意味と言う事だけ。
―――――――故に今、ナギサ・カワサキが自分をまるで親の仇でも見るかのようにこちらを睨みつけている理由が、セグウェイには分からなかった。
あのワルダック殺害して、屋敷から抜け出した後。
ハイエナバードを通して、彼女と話そうとしたらいきなりここに呼び出された。別に今度でも良いとセグウェイは言ったが、ナギサが今でないとダメだと言って無理やりこの、スミガタケへと呼び付けたのである。
「……ようやく会えましたね、セグウェイ」
酷く冷たくなるような声とでも評す声が、セグウェイの耳に入る。
「そうですね。ワルダック様の件、ご苦労様でした」
「……あなたを殺すのに比べたら、大した問題ではないわよ」
その言葉の意味をセグウェイは理解出来なかった。
友の敵討ちをしたいんだろうなと言う事は、感情を理解出来ないセグウェイにも分かる。しかし、そのために自身の味方の軍を危険にさらし、そして人を殺したこのナギサ・カワサキの考えが理解出来なかった。
―――――――――たかがナナミ・クジョウと言う一個体が死んだくらいで、何だと言うのだ。
戦争になれば、もっと多くの血が流れる。そんな時でナナミが殺されても、こうやって敵討ちをするつもりだったのだろうか。そんな非効率的な行為を?
「一応、約束と言う事で来ましたけれども、あなたの気持ちは理解に苦しむ。彼女とは所詮、同じチームの味方だった、と言うだけの間柄ですよ。私はこれまでにも、多くのあなたの軍の同胞を撃ってきた。しかし、たった1人が殺されたくらいでそこまで激怒する理由が私には分かりません」
「……黙れ。これは彼女の敵討ちです」
だから、それが分からない。
死んだ人間のために行動を起こすと言う理由が、セグウェイには理解出来ない。
「分からない。さっぱり分からない。今の君は狂っている。
冷静沈着に、人の物を《盗んで》いた君のほうがよっぽど良い。こんな無意味な敵討ちに、行う意味はない」
「……意味はない。そうかもね」
「人間は良く分からない。意味がない無意味な行動に力を注ぎすぎている。感情を左右されすぎている。
私を殺したからと言って、ナナミ・クジョウが蘇る訳でも、彼女が感謝を伝える訳でもない。ただあなた自身の自己満足、それだけのために付き合わされるこちらの身にもなって欲しい物ですよ」
本当に意味がない。
――――――――神様達はどうして、こんな人間なんかをベースにしたモンスターを作ったのかも理解に苦しむ。
心も。
感情も。
気持ちを。
思いも。
感傷も、情緒も。
モンスターなんかに必要ない感情だというのに。
「心なんていらない。心なんて知らなくて良い。
無知が恥だとしても、心なんかを知った所でその恥が消されるほど大きな存在だとも思えない。
――――――――――だから、ここであなたに、1対1の戦いにて、ナギサ・カワサキさんに『心が不必要な物である』事を教えてあげましょう。勿論、少し距離を取って」
「……じゃあ、私は彼女の事を想う私の力を見せましょう」
『想いの力』……そんな事を言っている奴ほど、無力で、そして儚い物だと言う事をセグウェイは知っている。そう言う奴らを何人も、この銃で始末して来た。
大丈夫、彼女なんか、このセグウェイの敵ではない。
「では、勝負開始と参りましょうか……ね! この戦いの!」
セグウェイはそう言って、地面に球を投げつけ、その球から白い煙が発生して、急きょ2人の戦闘会場となった森は白い煙に包まれていた。
【セグウェイ】
初めから心がなかった訳ではない。けれども、武器に心は必要ないと自ら心を捨ててしまったモンスター。今では効率優先。
【新作】
本日の12時より。『キャストオフ・アクセル~裸のランナー~』と言う新たな異世界転生劇が幕を開きます。