ナギサ・カワサキの暗殺日誌(3)
「【戦術賢者】、【万能戦士】の名を頂戴したヒカロウ。その強さを今、見せつけて置こう」
そう言うヒカロウは、ポケットから別の紙で折られた折鶴を取り出す。
(【万能戦士】……その名前には聞き覚えがある)
そう、【魔王】であるリリーベル・フランベル様から厳重な注意勧告を受けた名前であるからだ。『その者の能力は、君の《盗み》と相性が悪い』と言われていたからだ。
しかし、確かにこの男もセグウェイに相性が悪いと思わせるような相手ではあるが、それ以上に相性が悪いのが私なのである。これは狙ってやったとしか思えない。
それに、
「貴様! 我が【教会軍】の幹部であるワルダック様を殺して、あまつさえか弱き女性達を殺す! その所業は悪魔の所業! 無事に逃げ帰ると思わない事だ!」
このタイミングも偶然にしては出来過ぎている。殺害対象を殺して逃げ帰ろうとしたその瞬間に、姿を見られるだなんて本当に狙っているとしか思えない。やはりセグウェイにはめられたのかも知れない。
「……どちらにせよ、あなたを倒すか、殺すかしないとここからは無事に帰れそうにない」
「倒す? 殺す!? 言っておくが、我は別に過剰なまでの女性愛護の精神を持ち合わせている訳ではないぞ。確かに【戦術賢者】の中には『女には一切手を出さない』と言う誇り高いポリシーを持つ者が居るが、我は違う。
敵である以上、性別は関係ない。ましてや、人殺しに手加減はせぬ」
良い心構えですね。私も女性だからと言って手を抜かれるぐらいならば、手を抜かずに戦ってくれた方が助かると言う物ですよ。その方が、精神的にも攻撃して来たからと言う理由にて殺しやすくなりますし。
「……良いでしょう。ウォーミングアップ代わりに戦って差し上げます。今の私の実力であの人殺しを倒せるかどうか疑問だったんですよね」
「人殺しはこの我の手でぶちのめす!」
そう言って、彼は折鶴をこちらに向ける。
「銃の構え、弾!」
そして折鶴を指で弾いた瞬間、こちらに猛スピードで飛んで来る折鶴。その姿は本当に銃弾だ。
「セメント・ボール!」
私は手からセメントを出して、その折鶴をボールのように囲む。セメントの球の中心に折鶴が来るようにである。折鶴は周りに重量が重い物で囲まれたせいで身動きが取れなくなり、失速して地面に落ちる。
「―――――――次はこれだ! 槌の構え、打!」
そしてヒカロウは私の上に跳び上がって、そのまま手に持った壺をまるでハンマーを振り落すかのように振るう。
(さっき、廊下で見た壺!?)
私はとっさにセメントを足から出して、滑るようにしてその壺の攻撃を避けた。ヒカロウによって振りかぶった壺は地面に当たって破片となって割れる事無く、むしろ地面を凹ませるくらいの衝撃を与えたのにも関わらず壺は割れていなかった。
「剣の構え、斬!」
ヒカロウはその壺の中から紙を丸めて作ったような剣を出して、私に向かって振るう。
「セメント・バリア!」
手からセメントを出して盾を作り出すも、その盾はすぐさま斬られてしまっていた。セメントを足から流して、またしても避ける私。
「驚いたぞ。まさか固めるだけしかないと思っていたセメント戦法に、そのようなバリエーションがあるとはな」
「……セメントを固めるか、固めないかこちらの自由です。むしろそっちの方が驚きですよ。【魔王】様のお話を聞いていなかったら、やられていたのはこちらかもですよ」
【万能戦士】、ヒカロウの戦法はやはりヤバい。私との相性が悪すぎる。
「そうだろうな、我もこう思っていたところだ。ここまで我が戦術に相性が良い相手だなんて。
武器ではない物を、我が身体によって武器へと変えるこの戦術、【代替戦法術】に」
【代替戦法術】。それがヒカロウの攻撃の正体。
普通は武器ではない物を、魔力によってコーティングして武器へと変える戦法。
折鶴を弾丸に。
壺をハンマーに。
そして、紙で出来た剣を本物の剣に。
私は、相手の武器を《盗んで》、その形、構造を完璧にセメントにて形成する。しかし、それも形だけ真似ただけ。
【代替戦法術】は物はなんも意味がない。重要なのは、どんな物でも武器へと変えるヒカロウなのだから。
「たとえ水一粒だって、武器に変えて貴様を倒す! 銃の構え、弾!」
そして廊下に置いてあったバケツの中身をぶちまけるヒカロウ。そこから出て来たのは、大量の水だった。濁っているし、恐らく使用人が掃除に使った物をいざと言う時のためにヒカロウがその辺に置いていたのだろう。
彼の手によって、水一粒でも”武器”になるのだから。
私はとっさにセメントを出して防ごうとするが、完全に私の身体を覆うかのようにかけられたその水を防ぐには時間が足りなかった。
私の身体に、武器と化した水が襲い掛かる。
「……ッ!」
全身が、まるで銃弾の雨を浴びたかのように痛い! 苦しい!
「どうだ!? もう1発!」
……拙い。流石にもう1発は身体が保てない。
(……仕方ない、最後の手段に取って置きたかったんですが)
私はそう思いながら、『奥の手』を使う。
――――――――そして、
「な、なんだと……」
ヒカロウは私の、先ほどの紙の剣の形を真似たセメント製の剣によって壁に吹き飛ばされていた。そして彼の身体をセメントで包んで固め、動けない状態にしておく。
「……切れないので、固くして殴っておきました。まぁ、そろそろ時間切れですね。かなり音を立ててしまいましたので、これで終いです。まぁ、あなたを殺したいわけではないので、命は《盗まないで》置きますよ」
「……お、おい! 我の攻撃をどうやって……」
そうやって喚き立てる彼の口を、ガムテープで彼の口を塞いでおく。恐らく武器用に置いていたんでしょうが、こちらが使わせて貰います。そして彼はフゴー! フゴー! と、怒ったようにこちらを見るヒカロウ。
そしてそんな彼に一言、
「……どうやって避けたか。それは秘密ですよ」
と言って、私は窓を破ってイスカンダル邸から逃げ出した。
【ヒカロウ】
【戦術賢者】の1人。【万能戦士】との異名を持つ。本来は武器でない物に魔力を纏わせて、武器へと変える【代替戦法術】の使い手。なお、武器に纏わせると性能が上がるらしい。
剣、銃、槌、槍、弓など全ての武器を使いこなせるが、決して天才というわけではなく、ただただ万能なだけ。
【新作について】
どこからが18禁なのかと言う事を考慮しつつ、書いています。多分、大丈夫だとは思いますが、かなりぶっ飛んだ内容になると思います。